鬼平や竹鶴~私のお気に入り~

60代前半のオヤジがお気に入りを書いています。

お気に入りその1545~磯田道史2

2018-07-13 12:28:14 | 鬼平・竹鶴以外のお気に入り
今回のお気に入りは、磯田道史2です。

磯田道史の「日本史の内幕」で紹介していた「無私の日本人」を読みました。
中編・短篇の伝記小説3篇が収録されています。

AMAZONの内容紹介を引用します。
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貧しい宿場町の行く末を心底から憂う商人・穀田屋十三郎が同志と出会い、心願成就のためには自らの破産も一家離散も辞さない決意を固めた時、奇跡への道は開かれた。
―無名の、ふつうの江戸人に宿っていた深い哲学と、中根東里、大田垣蓮月ら三人の生きざまを通して「日本人の幸福」を発見した感動の傑作評伝。
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冒頭の「穀田屋十三郎」という作品を書くに至った顛末は「日本史の内幕」で紹介していました。
この作品は後に「殿、利息でござる!」という映画になりました。

ある日磯田は、伊達藩が治めていた時代に後世に伝えるべき感動的な話があったという手紙をもらいます。
それは宿場町の人々が1000両を伊達藩に貸し、藩は毎年利息の1割を彼らに支払い続け、町の人々は重税から救われたというものです。
磯田は手紙の主が生涯をかけて集めた古文書などに目を通し、その詳細が明らかになりました。

それは宿場町の中でも比較的裕福な商人たち9人が疲弊した宿場町を救う逆転の一手として行った奇跡の大事業でした。
紆余曲折の後、その事業は軌道に乗り、毎年利息の100両が町の人々に配分され、彼らは重税から解放されました。
町を逃げ出す者はいなくなり、後年の飢饉も乗り切ることができたそうです。
冒頭で9人は自らが路頭に迷う覚悟さえして1000両を作ります。
最初この話を受けた伊達藩は「小賢しい策」と思いこみ相手にしませんでした。
ところがこの話は今は亡き先代から数十年にわたり引き継がれてきた願いであり、神々しいまでに澄んだ心から生まれた無私の願いであることが役人たちにも理解され、ついに願いは成就しました。

無私の心で町を救った9人をたたえた「国恩記」という文書が伝えられています。
ナルホド、このような美しい話は記録に残したくなります。
昔の人は文書として、そして現代では小説や映画として。
すぐに映画の方も観ました。

ラストで、羽生結弦が伊達藩の殿さまを演じていました。
殿さまがこの大事業の中心的役割を果たした造り酒屋をたずね、褒美として酒の名を3つ名付けて帰ったという逸話を再現したシーンで、実に堂々としたセリフ回しと演技でした。
地元宮城県振興のために一肌脱いだ、ということでしょうが、本当に絵になる美青年です。
世界中に女性ファンがいるのは当然でしょう。
さらに「萱場のことは許せ。藩の財政が苦しいのは余に責任があることだ」という彼のセリフ。
これで松田龍平演じる萱場の評価が一変する重要なシーンです。
こんな役割を見事に演じきるとは一流俳優も舌を巻く演技力でした。
あなたが「ゆづファン」かどうかは別にして、映画の見所です。
さて肝心の映画自体の感想はというと、星4といったところ。
何度も観るというほどではありませんが、人に勧めたくなる感動的な映画に仕上がっていることは間違いありません。
私は、山崎努・妻夫木聡・西村雅彦の出演シーンが印象的でした。

さて、原作本に話を戻します。
本書の「あとがき」と「解説」が絶品です。
実に感動的な内容なので、未読の方はそちらから先に読むことをおススメします。

「あとがき」には著者が「地球上のどこよりも、落とした財布がきちんと戻ってくるこの国」を誇りに思っていることや、少子高齢化・人口減少により経済的にどんどん縮小していく日本の未来を危惧していたがGDPの競争より大切なものを無私の日本人たちに教えられたことで心配がなくなったことがつづられています。

また藤原正彦による解説には、惻隠・献身・謙譲という日本人の美しい心を体現した人々がいたことを磯田が古文書から浮かび上がらせたことに賛辞を贈っています。
「お金に頼ることのない幸せ」
「日本人の誇るべき、そして近年忘れられてきた美徳」
「親切でやさしい日本人」
「幕末維新の頃に来日した欧米人は、日本人は貧しい、しかし幸福そうだ、と首をひねった」
と「無私の日本人」を誉めたたえています。
そして磯田が美しく生きた日本人たちをこれからも古文書から蘇らせてくれることへの期待を述べています。
私も同感です。
「縮小ニッポン」の流れはもう止められません。
今こそ経済的な成長が幸福ではないことを私たち日本人は思い出すべきです。
そのためには維新以前の日本人の生き方を今一度学ぶ必要があり、今後の磯田氏の活躍が重要になると思います。



コメント (2)
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