元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ほつれる」

2023-10-08 06:08:25 | 映画の感想(は行)
 心の底から“観て損した”と思った映画だ。何から何まで、実に不愉快。共感できる箇所は皆無。よくこんなシャシンの製作にゴーサインが出たものだ。もちろん、不快なキャラクターやモチーフばかりを並べた映画がダメだと言いたいのではない。ネタ自体が外道でも、ドラマに力があれば観る者を瞠目させることは可能。しかし本作には映画的興趣を喚起させようという姿勢は見られず、弛緩した空気が流れるのみ。まったくもって話にならない。

 主人公の綿子と、夫の文則との仲は末期的な状況にあった。彼女は旦那を見限り、友人の紹介で知り合った編集者の木村と浮気するようになる。だが、2人でキャンプ行った帰り道、木村は綿子の目の前で交通事故に遭い死んでしまう。葬儀にも行けなかった彼女は、せめて墓参りはしたいと思い、友人の英梨と木村の実家がある山梨に足を運ぶ。一方文則は、妻の行動に不信を持つようになる。

 まず、木村の事故直後の綿子の振る舞いがおかしい。彼女は救急車を呼ぼうと一度はスマホを手に取るのだが、結局何事も無かったかのように立ち去ってしまう。2人の仲が明るみになることを恐れるがゆえの行動だろうが、ついさっきまで“デート”を楽しんでいた相手の安否を関知しないというのは、この女には一般常識が欠落していると思わざるを得ない。かと思えば、文則も常軌を逸している言動が目立つ。

 そして何と、この夫婦は互いに不倫の果てに元のパートナーと別れて一緒になったことが示されるのだ。さらに、木村やその父親をはじめ、この映画に登場するのはロクでもない人間ばかりである。冒頭にも述べたが、たとえクソみたいな連中をズラッと並べようが、そこにドラマ的な盛り上がりや切れ味鋭い描写などを織り込めば映画として十分に楽しめるのだ。ところが、話がいくら進んでも面白そうな場面は出てこない。指輪がどうしたとか、ヒロインが意味もなく旅館に泊まるとか、そういうどうでも良いエピソードが漫然と語られるだけで、少しもこちらの興味を引くような展開にはならない。

 脚本も担当した監督の加藤拓也なる人物は、演劇界では新進気鋭の若手作家らしい。なるほど、ひょっとして本作を舞台で鑑賞すれば好印象を得られる可能性はあるだろう。だが、映画を観る限りでは才気走った部分はまるで見受けられない。84分という短い尺ながら、随分と長く感じられた。

 そして、主役の門脇麦をはじめ、染谷将太に古舘寛治という仕事ぶりには定評のある演技者を集めていながらこの体たらくだ。文則に扮する田村健太郎の嫌味っぷりは目立っていたが、ただ不快なだけで見ていて楽しくない。黒木華なんて、こんなつまらない役を振られて気の毒になってくる。画面が35ミリスタンダードサイズというのも実に臭く、単なる“カッコつけ”にしか思えない。
コメント
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