元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「黙秘」

2007-12-24 06:53:22 | 映画の感想(ま行)
 (原題:Dolores Claiborne )95年作品。メイン州の小さな島で、女主人を殺した容疑に問われているメイドのドロレス(キャシー・ベイツ)。20年前彼女の夫が変死を遂げた事件(事故として処理)でもいまだに彼女を疑っている警部(クリストファー・プラマー)は、当時の重要な証人でもある彼女の娘で新聞記者のセリーナ(ジェニファー・ジェイソン・リー)をニューヨークから呼びよせる。セリーナとドロレスは15年も会っておらず、相当の確執を抱えているようで、警部はそこにつけ込んで有罪に持ち込むつもりだ。スティーヴン・キングの小説を映画化したのは、ベテランなのに「愛と青春の旅立ち」以外はほとんど評判にもなっていないテイラー・ハックフォード(笑)。

 はっきり言って、ミステリー映画としては出来はよくない。事の真相は物語の中盤で割れてしまうし、クライマックスの盛り上がりもイマイチだ。展開は不必要に遅い。編集であと20分切れば少しはマシになったかもしれないが・・・・。それでも妙に気になるのは、心の中に傷を負った登場人物たちの、一緒にいればいるだけますます落ち込んでしまう、そんなどうしようもない悲しさが全編を覆っているからだ。アメリカ映画には珍しく(失礼 ^^;)、容赦のない描き方が目立つ。

 キャシー・ベイツの演技は素晴らしい。夫に虐げられた30代から50代までの女の苦しみを、人生の年輪を感じさせるほど的確に浮き彫りにしている。老けメイクが見事なせいもあるが、若いころと年老いてからのヒロインの造形を、本当にひとりの人間が年月を重ねてきたように見せるというのは、並大抵のことではない。ロクデナシの夫となんとか上手くやっていこうとした20年前の彼女が、ある事件をきっかけに自虐的で人生捨てたような生活に落ち込んでいく、その無理矢理とも思える設定を彼女の演技ひとつで納得させてしまう。

 J・ジェイソン・リーもなかなかの演技だ。20年前の事件の記憶を無理に封じ込めたため、その反動でいまだに心の殺伐さが抜けきらない。有能なのにドラッグやアルコールに溺れ、職場の信頼やいい仕事にありつけない。悲しいほど荒んだ生活を、硬い表情と冷たい視線だけで表現している。そしてC・プラマーの警部や、ドロレスを死ぬまでこき使った老婦人など、登場人物はどれも暗い。あがけばあがくほど暗い自己憧着に落ち込んでいく、もう自暴自棄的な暗さというか・・・・。

 ラストはもちろん一応の解決を見て、母娘はそれぞれの道を歩んでいく。しかし事件の呪縛から抜け出しても、心の傷は消えずまた別の暗い孤独に苦しむことは火を見るよりも明らか。安易なハッピーエンドとは無縁の作者の確信犯ぶりが映画ファンにとってはけっこう納得できたりして(^^;)。演出面では現在と過去をカットバックさせる際のテクニックが面白い。ガブリエル・ベリステインのカメラがとらえる厳冬の島の風景は身を切られるように冷たい。

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