元・副会長のCinema Days

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「迫り来る嵐」

2019-02-25 06:50:28 | 映画の感想(さ行)

 (原題:暴雪将至 THE LOOMING STORM)物語の設定や画面造型は、ディアオ・イーナン監督の「薄氷の殺人」(2014年)と良く似ている。出来の方は「薄氷の殺人」よりはいくらかマシだ。しかし、殊更持ち上げるほど良くはない。聞けば第30回東京国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しているらしいが、それほどのシャシンとは思えない。

 97年、大規模な国営の製鉄工場がある湖南省の地方都市で、若い女を狙った殺人事件が頻発する。工場で警備員を務めるユィ・グオウェイは過去に数々の不祥事を解決し、周囲から“ユィ探偵”と呼ばれるほどの実績を上げていた。当然彼は工場の近くで起こったこの事件にも首を突っ込み、煙たがる警察を尻目に勝手に捜査を進める。地元における聞き込みはもちろん、怪しい人物を目撃しての追跡も厭わない。だが、ユィの無鉄砲な行動はトラブルを誘発するようになり、ついには彼の交際相手をも巻き込む事態になる。

 映画は犯人探しに主眼を置いていない。ドラマの軸になるのは、主人公ユィの屈折した心情である。しがない警備員の分際で、切れ者を気取って刑事事件を追いかける。ならば警官に転職すればいいのだが、プライドが邪魔をして今さら警察組織の歯車になるのはイヤだという。そんな根の暗い彼の内面を表現するように、画面には始終冷たい雨が降っている。

 冒頭、この事件から約10年経って彼が刑期を終えて出所するシーンが挿入されているので、ユィが何らかの罪を犯したことは確かだ。しかし、終盤で彼の所業がひっくり返されるようなモチーフが示されるので、どの行動が罪に問われたのか分からない。こういう話の組み立て方は正攻法ではなく、観ている側はストレスが溜まるばかりだ。

 97年当時は中国は市場開放路線が軌道に乗り、それに伴い古い国営事業は廃れていった。ユィの務める工場もリストラが断行される。その、決して明るくない変革の時期を暗鬱な映像と陰惨な事件、そして冴えない主人公の無鉄砲な言動で表現するという狙いは悪くないが、もうちょっと平易な展開にして欲しかった。

 ドン・ユエの演出はパワフルではあるが、暗い画面の連続が後半には鼻についてくる。主演のドアン・イーホンは熱演ながら、キャラクター設定が十分ではないので、高評価は出来ない。ただ、ヒロイン役のジャン・イーイェンは儚げな佇まいで、とても印象的であった。

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