元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「189」

2022-01-10 06:15:36 | 映画の感想(英数)
 惜しい作品だ。かなり重大なテーマを扱っていることは分かるが、如何せん映画の質が追いついていない。お手軽なラブコメやテレビドラマの焼き直しのような安易に企画に走るよりも、今の邦画に必要なのはシビアな題材を良質なエンタテインメントとして昇華できるようなプロデューサーなのだと思うが、残念なことに見当たらない。このままでは韓国映画なんかには永遠に追いつけないだろう。

 東京都多摩市の児童相談所に勤務する坂本大河は、虐待対策班で働く新任の福祉司だ。シングルマザーの母親の虐待から保護していた4歳の女の子が、理不尽な理由で親元に返される現場に立ち会うことになるが、翌日にその子は母親から殺害されてしまう。ショックを受けた大河は仕事を辞めようとするが、そんな時に父親に虐待を受けた6歳の少女が病院に搬送されたとの連絡を受ける。父親は娘への暴力を否定するが、この事件には一筋縄ではいかない背景があった。大河は顧問弁護士の秋庭詩音とともに、この父親の親権を停止するために奔走する。



 タイトルの“189”とは、児童相談所虐待対応ダイヤルのことで、2019年から運用されている。本作は厚生労働省から推薦を受けており、明らかにそのことを啓蒙する目的で作られているのだが、どうも教条的な面が勝ちすぎて居心地が悪い。モチーフを補足するために説明的なセリフが必要なのは分かるが、その扱い自体に面白味が無いし、何やら“解説してやっているのだ”という雰囲気が充満している。

 しかしながら、児童虐待問題に関する深刻な状況が紹介されているのは評価したい。法も行政も子供を守るには不十分で、救える命も救えなかったりする。特に前近代的な業務システム(データが各児相で共有されていない!)と、慢性的な人手不足を目の当たりにすると、暗澹とした気分になってくる。公的セクションを削減して住民サービスを低下させることを“身を切る改革”などと持て囃す風潮には、嫌悪感しか覚えない。

 映画は娯楽性を加味しようとするためか中盤からサスペンス仕立てになってゆくが、中身はテレビの刑事ドラマ並みの凡庸なもの。別の御膳立てを考えた方が良かった。加門幾生の演出は可も無く不可も無しといったレベルで、ここ一番の踏ん張りが効いていない。

 主役の中山優馬は熱演で、共感を呼べるような人物像になっていた点は良かった。詩音を演じた夏菜も頑張ってはいたのだが、弁護士には見えないのは痛い(苦笑)。前川泰之に灯敦生、平泉成、吉沢悠といった脇の面子はよくやっていたと思う。また、お笑い芸人のコロッケが本名の滝川広志で出ていたのには驚いた。

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