元・副会長のCinema Days

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「ローリング・サンダー」

2022-11-18 06:18:35 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Rolling Thunder )77年作品。70年代後半からアメリカ映画界ではベトナム戦争を扱ったものが目立つようになる。「ディア・ハンター」(78年)や「地獄の黙示録」(79年)あたりが代表作とされているが、それらに先立つシャシンにも見逃せない作品はいくつか存在する。この映画はその中の一本だ。

 1973年、テキサス州のサンアントニオの空港に8年の長きにわたって北ベトナムの捕虜になっていた空軍少佐チャールズ・レインが降り立つ。戦場の英雄の帰還に地元は沸き立つが、本人の心は晴れない。捕虜収容所でのトラウマは容易に払拭出来るものではなかったのだ。しかも、再会した妻は彼の留守中に他の男と懇ろになっていた。そんな中、メキシコのギャング団が家に押し入り、妻と息子は殺害される。チャールズも重傷を負い、生死の境をさまよう。ようやく回復した彼は、共に帰国したジョニーと一緒にギャングの一団を片付けるべくメキシコに向かう。

 マーティン・スコセッシ監督の「タクシードライバー」(75年)と似た話だと思っていたら、脚本家は同じくポール・シュレイダーだった。しかし、主人公の観念的な衝動のみで大立ち回りが展開するあの映画とは違い、本作のチャールズの言動はベトナム戦での体験が明確に反映されている。

 彼は家族を失っても、右腕を負傷しても、感情を表に出さない。彼の心はあの戦場に置き去りになったままなのだ。チャールズが再び能動的になるためには、あの戦争の“続き”を始めるしかない。軍服に身を包み、ジョニーと連れ立って敵のアジトに殴り込む彼の姿は、ベトナムでの“落とし前”を付けるように精気に満ち溢れている。

 アクション編に関しては定評のあるジョン・フリンの演出は闊達で、ドラマが弛緩することはない。終盤の活劇場面の盛り上がりも大したものだ。そのあとの無常的な幕切れも忘れ難い。主演のウィリアム・ディベインはニヒルな役柄を過不足なくこなしている。ジョニー役のトミー・リー・ジョーンズも好演だが、この頃は若い(笑)。チャールズを慕う酒場女に扮したリンダ・ヘインズは儲け役だ。

 決して大作ではないが、クエンティン・タランティーノはお気に入りの映画と公言しており、石井聰亙監督の「狂い咲きサンダーロード」(80年)やジョージ・ミラー監督の「マッドマックス2」(81年)など、インスピレーションを受けたと思しき作品もけっこう存在する。

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