元・副会長のCinema Days

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「The Son 息子」

2023-04-08 06:22:20 | 映画の感想(英数)
 (原題:THE SON )秀作「ファーザー」(2020年)で93回アカデミー脚色賞を受賞した劇作家のフロリアン・ゼレール監督の第二作ということで一応期待したのだが、何とも要領を得ない出来に終わっていて閉口した。これはひとえに、設定の普遍性の欠如に尽きる。誰にでも訪れる“老い”と、本人を取り巻く家族等が直面する問題を扱った「ファーザー」に対し、本作の建付けは何とも無理筋だ。この時点で鑑賞意欲が減退する。

 ニューヨーク在住の敏腕弁護士ピーターは、今や大物政治家の選挙対策委員を打診されるほどの出世を遂げていた。ある日前妻ケイトから、彼女と一緒に暮らしている17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される。母子二人だけの生活に閉塞感を覚えているためか、ニコラスは学校にもあまり行かずに引きこもっているらしい。父親の元で生活したいという要望に応えてピーターは彼を引き取るのだが、長らく疎遠だった父と子は簡単に関係を修復できるものではなかった。



 まず、ピーターの造形にはとても共感できない。とことん自分勝手な仕事人間で、他人の迷惑など知ったことではない。彼は妻帯者でありながら、何の後ろめたさも無くベスという愛人と付き合い、それを当然のことのように妻に告げて離婚する。もちろん、息子ニコラスはケイトに押し付けたままだ。前妻から泣きつかれて息子を引き取るが、父親らしいことは何もしない。いや、本人は良い父親であろうと努力しているつもりなのだが、それは他の人間にはまったく伝わらない。これではニコラスがメンタル面で問題を抱えるのも当然のことだろう。

 さらに映画後半にはピーターの父親アンソニーも登場するが、首都ワシントンに邸宅を構えるアンソニーは、自身の利益と名声のことしか考えない超エゴイストだ。ピーターはその資質を受け継いでいることが明らかになるが、そういう非人間性を身に付けないとこの一族の中では生きられない。ベスとの間に生まれた赤ん坊も将来は傲慢な人間になるか、あるいはニコラスのように神経が参ってしまうかのどちらかだろう。

 斯様な異様な家族関係の中で、いくら登場人物たちが悩もうとも、観る側にとってはそれは単なるレアケースと片付けてしまえる。つまりは“関係のない話”なのだ。取って付けたようなラストも脱力感が残るのみ。ゼレールの演出は前作ほどの切れ味は無く、凝った映像ギミックも見当たらない。アメリカが舞台であるにもかかわらず、どこかヨーロッパの都市を思わせる清澄な絵作りこそ印象的だが、それ以外は特筆できるものはない。

 主演のヒュー・ジャックマンは熱心に仕事をしていたとは思うが、こういうヒーロー然とした男よりも普通の容貌の俳優の方が合っていた。ローラ・ダーンにヴァネッサ・カービー、アンソニー・ホプキンスといった手堅いはずのキャストの演技も空振りの様相を示す。ただ、ニコラス役のゼン・マクグラスは芸達者で見どころがある。今後の活躍に期待したい。

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