元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「影の内側」

2018-09-22 06:20:07 | 映画の感想(か行)

 (原題:SMALLER AND SMALLER CIRCLES )アジアフォーカス福岡国際映画祭2018出品作品。重量感のあるサスペンス編で、見応えがある。同じカトリック教会内のスキャンダルを扱った作品といえば、アカデミー賞を獲得したアメリカ映画「スポットライト 世紀のスクープ」(2015年)を思い出す向きも多いだろうが、本作はあの映画よりも数段インパクトは上だ。

 マニラのゴミ集積場で、十代前半と思しき少年の他殺体が次々と発見される。遺体の損壊は激しく、明らかに変質者の犯行だ。NBI(国家捜査局)に依頼され死体を検分した法医学者のサエンス神父は、事件が土曜日にしか発生していないことを突き止め、若手神父のルセーロと共に捜査を開始する。

 一方、サエンス神父は以前から地域の教区にはびこる不正を糾弾しており、それを快く思わない枢機卿とその取り巻きは、2人の神父及びそれに協力するジャーナリストのジョアンナに対して何かとケチを付けてくる。フィリピンの作家による同名ミステリー小説の映画化だ。

 上映後に本作のスタッフも言っていたが、神父がこの映画のように事件の捜査や検死までやることは無い。これは純然たるフィクションである。しかし、それに大して違和感を覚えないのは、この一件が宗教に密着した重大な問題を扱っているからだ。

 事を“穏便に”収めたい当局側は別に犯人をデッチ上げるが、神父2人はその偽装を見破る。そして犯人の動機がカトリックの内部に存在する病巣に起因していることを暴いていくが、それを追求していくのが当の聖職者であることが、作劇により一層の切迫感を付与させている。主人公達の造型が、ベテランと若手という刑事ドラマの常道であることも嬉しくなる。

 ラヤ・マーティンの演出は骨太で、全編緊張の糸が途切れることが無く、最後まで観客を引きずり回す。また、暗鬱な画面とジットリと湿った映像、神経を逆撫でする音楽が抜群の効果を上げている。主役のノニー・ブエンカミーノとシド・ルセーロは好演。ヒロイン役のカーラ・ハンフリーズも魅力的だ。なお、フィリピンの大規模なゴミ捨て場と、そこに集まるスカベンジャー達の現状については過去にもいくつかの映画で描かれているが、一向に事態は好転していないようだ。

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