元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋のいばら」

2023-01-23 06:22:57 | 映画の感想(か行)
 最近の城定秀夫監督の多作ぶりには驚かされる。昨年(2022年)には4本をこなし、2023年にも複数が待機している。一時期の三池崇史や廣木隆一に匹敵するペースだ。しかし城定が彼らと違うのは、ある一定のレベルはキープしていること。びっくりするほどの傑作は無いかもしれないが、箸にも棒にもかからない駄作も見当たらない。職人監督としての手腕は評価すべきで、本作も気分を害さずに劇場を後に出来る。

 図書館に勤める富田桃は、最近交際相手の湯川健太朗にフラれたばかり。それでも未練がましく健太朗のSNSをチェックしていると、彼に真島莉子という新しいカノジョが出来たことを知る。しかも莉子は垢抜けない桃とは正反対の洗練された容姿の持ち主だ。そんな中、桃は健太朗のパソコンの中に交際中に撮った“不都合な写真”が保管されていることに思い当たる。何かの拍子に悪用されてはたまらないので、彼女はその写真データを抹消するために敢えて莉子に接近する。



 軟派な男と、タイプの違う2人の女子との三角関係のドラマの体裁を取っていながら、途中から映画の様相がまったく違ってくるところが面白い。さすが「愛がなんだ」(2019年)の澤井香織の脚本だけのことはある。とにかく、先が読めないのだ。写真データをめぐる“攻防戦”は物語のベースとして終盤まで機能させつつも、次第に健太朗の影が薄くなり、物語は意外な場所に着地する。

 考えてみれば、桃が莉子に“共闘”を持ち掛けた時点で一筋縄ではいかない展開を予想すべきだったのかもしれないが、絵に描いたようなラブコメ風のエクステリアが巧妙に観る者をミスリードする。城定の演出は殊更奇を衒った様子はなく、手堅くドラマを進めていく。イレギュラーな筋書きを伴うからこそ、このような正攻法のアプローチが相応しい。

 キャストでは、松本穂香と玉城ティナのダブル・ヒロインが最高だ。見た目もキャラクターも正反対ながら、この好対照ぶりが後半の展開の伏線にもなるという巧妙さ。パフォーマンスも申し分ない。軽薄野郎を上手く演じた渡邊圭祐をはじめ、中島歩に北向珠夕、不破万作、片岡礼子と脇の面子は揃っているし、白川和子が怪演を見せてくれるのもポイントが高い。城定監督の仕事からは当分目が離せないようだ。
コメント
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