元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「勝利への脱出」

2023-01-02 06:09:33 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Escape to Victory )80年作品。第二次世界大戦中に、捕虜となっていた連合軍兵士とドイツ代表との間で行われたサッカーの試合をネタにした娯楽編だが、現時点で考えるとタイムリーな題材だ。2022年に開催されたサッカーワールドカップの余韻があることは別にしても、この映画は実際の出来事をモデルにしており、それは1942年に行なわれた国際試合で、場所はウクライナだ。

 地元のプロチームとドイツ空軍選抜との間で試合が催されたのだが、ドイツ側は完敗。ドイツ軍はその腹いせとして相手チームのメンバーを強制収容所送りにしたという。他国に蹂躙される悲劇と共に、侵略勢力のプロパガンダに利用されるスポーツの在り方について考えざるを得ない。



 1943年、ドイツ軍情報将校フォン・シュタイナーはドイツ代表対連合国軍捕虜チームとの親善試合を思い付く。もちもん目的は独軍のPRで、会場は当時ドイツ支配下にあったパリだ。捕虜のリーダーである英国大尉コルビーはこの提案に同意するが、実は裏で大々的な捕虜脱走計画に加担していた。米軍大尉ハッチは外部のレジスタンス組織と連絡を取りつつ、自身はゴールキーパーとして試合に出場する。

 一応はマイケル・ケインとシルヴェスター・スタローンという有名俳優を配してはいるが、主眼は本物の元プロ選手が大挙して出演し、妙技を披露していることだ。2022年末に世を去ったスーパースターのペレをはじめ、元イングランド代表のボビー・ムーア、スコットランド代表のジョン・ウォーク、アルゼンチン代表の主力だったオズワルド・アルディレス、ベルギー代表のポール・ヴァン・ヒムストなど、サッカー好きならば思わず膝を乗り出すような面子が揃っている。彼らに釣られてかスタローン御大も汗まみれで頑張っているのも面白い。

 だが、このキャスティングは単なる話題集めではなく、ドラマにリアリティを持たせるための手法に過ぎない。そこは名手ジョン・ヒューストン監督、豪華な顔ぶれに寄りかかったような作劇には無縁である。試合の展開は当初ピンチになるが後半盛り返すという、スポ根ものの王道を歩んでいるが、終盤には予想を裏切るような“仕掛け”が用意されており、存分に楽しませてくれる。まあ、よく見ると納得のいかない箇所もあるが(笑)、勢いで乗り切ってしまう。

 ジェリー・フィッシャーによる撮影はソツがないし、ビル・コンティの音楽は盛り上がる。なお、ウクライナに侵攻したロシアは国際スポーツの現場から今は閉め出されているが、少し前にはスポーツが国威発揚の道具になるのが当然だった。覇権主義の国にとっては、スポーツの存在感は我々とは違う次元に属している。
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