元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ホワイト・ノイズ」

2023-01-06 06:31:40 | 映画の感想(は行)
 (原題:WHITE NOISE )2022年12月よりNetflixにて配信されているが、私は劇場での先行公開にて鑑賞した。監督が秀作「マリッジ・ストーリー」(2019年)のノア・バームバック、主演が同作でコンビを組んだアダム・ドライバーということで期待していたのだが、どうにも気勢の上がらない出来だ。変化球で攻めてきた題材を、何の工夫も無く受け流しているような感じで、評価するに値しない。

 おそらく時代設定は80年代前半。オハイオ州の大学に勤める教授のジャック・グラドニーは妻バベットと4人の子供と暮らしているが、実は夫婦共々複数の離婚歴があり、2人の間の実子は末っ子だけだ。ある日、町の近くで貨物列車の脱線転覆事故が発生。積んでいた有害化学物質が流出し、住民は避難を余儀なくされる。



 ジャックの一家もシェルターに身を寄せるが、それ以来彼は世の中に絶望して奇行に走り、避難騒ぎが終息してもマトモな生活を送れない。気が付けばバベットが怪しげなクスリを服用しており、ジャックはその真相を突き止めるべく奔走する。アメリカの個性派作家ドン・デリーロの同名小説の映画化だ。

 列車事故に伴う大規模な災厄が発生し、主人公一家がそれに巻き込まれて危機を突破しつつ家族との絆を再確認するとか、あるいは反対に修羅場に発展するとか、とにかく話がアクシデントを中心に進むはずだと誰でも思うだろうし、そっちの方がドラマとしてまとまりが良いはずだ。しかし、実際は事故云々は前半で尻切れトンボのまま放置され、バベットが所持しているドラッグにドラマの焦点が移り、そのまま最後までいくのかと思ったら、何やら同僚との微妙な関係とかがクローズアップされる。

 話があっちこっちに飛びまくり、まったく要領を得ない。別に展開がカオスであること自体が問題ではなく、上手くやってくれれば文句は無いのだが、そういう八方破れ的な作劇がサマになるのは、大風呂敷を平気で広げられるだけの才覚を持った一部の天才だけだ。残念ながらバームバックにその資質は無い。迷走の果てに奇を衒ったラストを見せられるに及び、時間を浪費したような愉快ならざる気分になった。

 主演のA・ドライバーは頑張ってはいるが、映画の中身がこの有様なので徒労に終わっている感がある。それにしても、彼の突き出た腹には苦笑してしまった。特殊メイクなのか、あるいは“肉体改造”なのかは知らないが、本作で印象的だったのはその点だけだ。妻役のグレタ・ガーウィグをはじめ、ドン・チードルにラフィー・キャシディ、ジョディ・ターナー=スミスら脇のキャストも精彩を欠く。ダニー・エルフマンの音楽は平均的な出来。
コメント
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