元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「かがみの孤城」

2023-01-15 06:14:03 | 映画の感想(か行)
 観終って、これは子供向けのシャシンかと思ったが、よく考えると主人公たちと同年代の若年層が鑑賞して果たして納得できるかどうかも怪しい。それだけ低調な出来である。ところがなぜか絶賛している向きが少なくない。それも子供だけではなくいい年の大人まで“感動した”というコメントを残していたりする。アニメーションだから採点が甘くなるのかもしれないが、あまり好ましい傾向だとは思えない。

 中学一年生の安西こころは、同じクラスの真田美織をリーダー格としたイジメのグループから手酷い目に遭わされていた。そのため不登校になり、部屋に閉じこもる毎日だ。ある日、自室の鏡が光り始めて彼女はその中に吸い込まれてしまう。そこは城の中で、6人の見知らぬ中学生がいた。そこに“オオカミさま”と名乗る狼のお面をかぶった少女が現れ、一年以内に城のどこかに隠された秘密の鍵を見つければ、どんな願いでも叶うと告げる。辻村深月の同名小説(私は未読)の映画化だ。

 まず、舞台になる城の造型に工夫が足りていないことが不満だ。どこかのテーマパークの施設のようで、神秘さや浮世離れした美しさ(あるいは禍々しさ)が少しも出ていない。

 登場人物たちは城に閉じ込められたままなのかと予想していたが、現実世界とは出入り自由なので拍子抜け。しかも中盤で全員が同じ学校の生徒だということが判明する。だが、現実世界では彼らが会うことはない。このカラクリは大抵の観客は真相をすぐに見破るのだが、映画は何と終盤近くまで謎のままで引っ張るのだ。

 そして“オオカミさま”が7人を城に召喚した理由がラスト近くで明かされるのだが、その動機付けは弱い。どうしてこの7人だったのか、明確に理由は提示されない。まあ、共通したモチーフはあるが、それだけではインパクトに欠ける。そもそも、イジメ等に悩んでいるティーンエイジャーなんて古今東西数多く存在しているわけで、実際はそれぞれが何とか解決法を見つけていくものだ。異世界の“城”に招待してもらわないと物事が進展しないというのは、無力感が漂う。

 思えば監督の原恵一が2010年に撮った「カラフル」も似たようなテーマを扱っていたが、あの映画の方が(万全の出来ではないものの)はるかに説得力があった。その他にも、こころが友人の家で偶然見つけた一枚の絵が鍵を見つけるヒントになるという無理矢理なプロットや、その鍵の形状自体も“反則”である等、承服しがたいネタが連続する。

 キャラクターデザインや作画のレベルは決して高くなく、声の出演も多彩な面子を集めた割には効果を上げていない。特に某アニメの決め台詞が楽屋落ち的に出てくるのには脱力した。なお、富貴晴美による音楽と優里の主題歌だけは良かった。
コメント
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