元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「先生、私の隣に座っていただけませんか?」

2021-10-03 06:56:52 | 映画の感想(さ行)
 演技の下手な役者は一人も出ていないし、当然彼らのパフォーマンス自体には問題は無い。しかしながら、話は全然面白くない。ただの思い付き程度で書き飛ばしたような脚本を、求心力に欠ける演出がトレースしているだけのように感じる。映画館で公開するより、テレビの単発ドラマとして夜10時以降にオンエアするぐらいで丁度良い。

 漫画家の早川佐和子は、連載中の作品の最終回をやっと描き上げたところだ。その夫の俊夫も以前は名の知られたコミック作家だったが、彼は数年前からスランプに陥っており、今は佐和子の作画を手伝うのみである。実は俊夫は出版社の女子社員の千佳と浮気しているのだが、佐和子はそれに気付いていた。

 ある日、佐和子の母親が足をケガしたという知らせが入る。一人暮らしの母親をケガが完治するまでケアするという名目で、佐和子と俊夫は彼女の実家がある茨城県の地方都市に夏の間に住むことになる。佐和子は長年の懸案だった自動車運転免許を取るため県内の教習所に通い始めるが、若くハンサムな担当教官の新谷に心惹かれるようになる。そして何と、それをネタに新作を描き始めるのだった。

 ヒロインが旦那の浮気の仕返しに自分も不倫に走り、それを漫画にするというアイデアは悪くない。だが、俊夫はそんな事態に対してオロオロしているだけというのは情けない。自分も漫画家ならば、どうして言いたいことを漫画にして張り合わないのか。互いの漫画が交錯し、やがて現実とフィクションとの境目が曖昧になって異様な世界に突入するという展開になれば映画的興趣は大いに高まったところだが、本作の送り手にはそこまで思い切ることは出来なかったようだ。

 中盤では佐和子が突然失踪するというネタが披露されるが、これは“真相”がスグに分かるので盛り上がらない。終盤の扱いと幕切れも、まあ予想通りだ。そもそも、メジャー誌に連載を持っているという佐和子が俊夫以外にアシスタントを採用していないというのも変な話で、しかも住まいは安価な賃貸アパートだ。ひょっとして佐和子はあまり売れていないのかもしれないが、そのあたりの説明も無い。

 監督の堀江貴大の仕事ぶりは映画らしい仕掛けは見せず、テレビ的な展開に終始。主演の黒木華のパフォーマンスは、相変わらず見事だ。微妙な表情の動きで、登場人物の内面を浮き彫りにする。柄本佑の演技も悪くないし、金子大地に奈緒、風吹ジュンといった顔ぶれも申し分ない。だが、ストーリーが低調なので演技は映えない。ただ、平野礼のカメラによる映像は非凡だった。
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