元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジュゼップ 戦場の画家」

2021-10-17 06:58:08 | 映画の感想(さ行)
 (原題:JOSEP )一応、フランスとスペイン、そしてベルギーの合作映画ということだが、風刺画家でもある監督のオーレルはフランスで活動していることもあり、実質的にはフランス映画と言っても良い。だから、映画の題材は徹底してフランス側から描かれることになる。結果としてそれが良かったのかどうかは、意見の分かれるところだろう。

 1939年2月、内戦後のスペインから多数の共和党員がフランコの独裁から逃れるため、国境を越えてフランスにやってくる。ところがフランス政府は、彼らをさながら囚人のように収容所に押し込めて冷遇する。その中に、画家志望のジュゼップ・バルトリがいた。彼は生き別れになった婚約者を探すため、フランスにやってきたのだった。



 収容所に勤務する憲兵セルジュはひょんなことからジュゼップと知り合い、友情を深めていく。やがて彼は、ジュゼップを逃亡させるために危ない橋を渡ることを決心する。1910年にバルセロナで生まれ、後にアメリカに移住して成功した、実在の画家ジュゼップ・バルトリを題材にした長編アニメーションだ。

 映画は戦後数十年が経過し、老境のセルジュが訪ねてきた孫に当時のことを話す場面を中心に展開する。だから、ストーリーはセルジュの体験談がメインであり、ジュゼップの人柄や芸術観などは重要視されていない。彼がメキシコに渡ってフリーダ・カーロに出会うくだりも、他人事のように描かれる。そのあたりは不満だが、作品の狙いが隣国に対するフランスおよびフランス国民のかつての態度を描出するものだと割り切れば、ある程度は納得出来る。

 セルジュのように亡命者の立場を理解した者は、おそらく少数だったのだろう。第二次大戦中に、ナチスの傀儡であったヴィシー政権を唯々諾々と受け入れた国民性をも暗示している。オーレルの作風は独特のもので、ジュゼップの作品をトレースするような手書きの作画を採用。スムーズな動きには欠けるが、殺伐とした時代の空気と暗さを上手く表現している。

 上映時間が74分と短いのも、これが初監督になるオーレルのスキルと凝った画面構成を考えれば最適だったと思われる。また、舞台が現代になるラストの扱いも、けっこう秀逸だった。第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション作品。日本では“東京アニメアワードフェスティバル2021”に出品され、長編グランプリを受賞している。
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