元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくのバラ色の人生」

2021-10-02 06:58:15 | 映画の感想(は行)
 (原題:Ma vie en rose)98年作品。正直言って、あまり釈然としない出来である。しかしながら、今からほんの20年ぐらい前には、LGBTQに対する理解がこれほどまでに浸透していなかったという事実を知るだけでも、存在価値のある映画だ。しかも、同性婚がアメリカより早く認められたフランスの話である(2013年5月に承認)。世の中のトレンドは急速に移りゆくものであるという、事実認識を新たにした。

 7歳の男の子リュドヴィックことリュドの夢は、女の子として生きることだ。女物のドレスを着て人前に出たり、人形などファンシーなものが大好きだ。そして、父親の上司の息子ジェロームと結婚することを勝手に決めている。そんなリュドを両親は何とか理解するように努め、周囲の奇異な視線から彼を守り抜こうとする。しかし状況は日々悪化し、一家は次第に孤立するようになる。



 とにかく、異分子に対する無理解と指弾が地域ぐるみで行われていることにゾッとする。さらに、いつの間にか全ての責任はリュド一人にあるような案配になっていき、あれだけ仲の良かった親や姉も彼に辛く当たるようになっていく。まさに一点の救いも無く、リュドの受難は続くのだ。だが、これだけの逆境にありながらリュドがさほど精神的に参っているように見えないのは、どうも腑に落ちない。

 祖母が何とか彼の支えになったり、幻想の世界で遊ぶことを覚えたりと、確かに“安全弁”のようなモチーフはあるのだが、それだけでは7歳の子供にとって乗り越えられるものではない。いつか暴走して取り返しの付かないことが起こって当然だと思うのだが、映画はあくまでリュドに気丈に振る舞わせる。これはひょっとして、作者はLGBTQなんて深く突っ込むに値しないネタだと思っているのかもしれない。ただそれは今だから言えることで、当時の認識なんてその程度のものだったと想像する。

 アラン・ベルリネールの演出はポップなタッチだが、内容が重いのでチグハグに見える。だた、88分という短い尺なのであまりストレスを感じることは無い。リュド役のジョルジャ・デ・フレネは好演。ジャン=フィリップ・エコフェにミシェル・ラロック、エレーヌ・ヴァンサンという顔ぶれも悪くない。イヴ・カープの撮影とドミニク・ダルカンの音楽は及第点だ。
コメント
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