元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「護られなかった者たちへ」

2021-10-30 06:51:36 | 映画の感想(ま行)
 ミステリー映画としてはプロットが脆弱であることをはじめ、作劇上の欠点が目に付く映画だ。普通ならば失敗作として片付けてしまうシャシンだが、生活保護という題材を取り上げたことは大いに評価する。正直言って、過去にこのネタを採用した映画というのは思い付かない。重大なテーマであるにも関わらず、皆が“見て見ぬ振り”を決め込んでいたという、脱力するような構図が浮かび上がってくる。

 仙台市で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという、凄惨な殺人事件が連続して発生。被害者はいずれも役所勤めで、人に恨まれるようなことは考えられない人格者だという。だが、宮城県警捜査一課の刑事である笘篠誠一郎は、被害者の共通点を見つけ出す。一方、放火で服役していた利根泰久が刑期を終えて出所してくる。



 利根はかつての東日本大震災で身内も仲間もすべて失ったが、避難所で知り合った老女と少女と共に、何とか再出発しようとしていた。しかし、ある出来事により捨て鉢な行動に走って逮捕されたのだった。笘篠は利根を重要参考人としてマークする。中山七里の同名小説の映画化だ。

 勘の良い観客ならば、犯人は誰なのかは中盤で分かる。しかし、それでもその犯行のプロセスには無理がありすぎる。動機も牽強付会の極みであり、到底観る者を納得させられない。笘篠も震災で家族を失っているが、その際に利根との接点があったという筋書きは、御都合主義と言われても仕方がない。その伏線が強引に回収される終盤も、居心地が悪くなるばかりだ。

 だが、この題材の重さは、そんな不手際もカバーしてしまうほどの存在感を醸し出している。震災をはじめ、窮地に陥った国民を救済する“最後の砦”であるはずの生活保護。ところが、当局側は生活保護費なんか出したくはない。支給される側も、国からカネを恵んでもらうのを潔しとしない。また、生活保護を受けるほど困窮していることが、親類縁者に知られるのは避けたい。そもそも役所の人員が足りず、保護対象者を把握出来ない。さらに、生活保護に対する根強い偏見や妬み嫉みがある。これらの問題を丹念に描いているだけで、本作は十分価値はあると思う。

 瀬々敬久の演出作はクォリティにバラつきがあるが、今回は良い方である。阿部寛に佐藤健、林遣都、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子といったキャストは皆好演。特筆すべきは清原果耶で、同じく彼女が主演した、東北を舞台に震災をモチーフとして扱ったNHKの朝ドラ「おかえりモネ」の“もう一つの筋書き”という様相を呈しているあたりも面白い。
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