元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「おらおらでひとりいぐも」

2020-11-29 06:52:18 | 映画の感想(あ行)
 退屈な映画だ。とにかく、何も起こらない。もちろん、ストーリーに起伏が乏しくても映像や語り口で面白く見せる映画もあるだろうが、本作には見事に何も無いのだ。これで2時間17分も観客を付き合わせようという、送り手の姿勢は大いに疑問である。また困ったことに予告編だけは面白そうに出来ている。その予告編を観て映画館に足を運び、失望した向きも少なくなかったと想像する。

 埼玉県の地方都市に住む桃子は75歳。夫には先立たれ、子供たちは遠方に住み、今は一人暮らしだ。変化の無い生活を送る彼女の前に、見知らぬ3人(たまに4人)の男が現れる。彼らは彼女の“心の声”だった。彼らと賑やかなやり取りを続ける桃子は、55年前に故郷の東北の村を飛び出し、上京して同じ方言を話す周造と結婚し、それなりに幸せな家庭を持ったことを思い出すのだった。若竹千佐子による同名の芥川賞受賞作(私は未読)の映画化である。



 “心の声”たちが周りで走り回ることを除けば、桃子の日々は単調そのものだ。図書館で本を借り、病院へ行き、たまに自動車のセールスマンと会う程度。後半には周造の墓参りに出掛けるが、それも近所であり、道中で何変わったことに遭遇するわけでもない。どう考えても、主人公の生活をそのまま描くだけでは劇映画としての興趣に乏しい。

 ならば“心の声”たちの言動や桃子の回想場面、あるいは空想シーンなどが面白いのかというと、全然そんなことはない。どの場面も画面に隙間風が吹きまくっており、作り手のイマジネーションの不足ぶりが印象付けられるだけだ。桃子が地球の歴史に興味を持ち、自前の“歴史ノート”を作るくだりも取って付けたようで、正直言って意味が無い。

 結局、頭の中での空想にひたるよりも、桃子の人生を変えるのはささやかな“行動”であることが終盤示されるようだが、そんな当たり前のことを今さら主張してもらっても、こちらは鼻白むだけだ。

 主役は田中裕子と蒼井優のダブルキャストだが、芸達者な彼女たちの真価は発揮されていない。特に田中は現時点で60歳代の半ばであり、75歳のヒロインを演じるのは“元気すぎる”(笑)。濱田岳に青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、六角精児といった脇の面子の扱いも不十分だ。なお、周造に扮する東出昌大は相変わらず大根。沖田修一の演出は平板で、盛り上がりに欠ける。良かったのはハナレグミによる主題歌ぐらいか。個人的には、観なくても良い映画だった。
コメント
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