元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シカゴ7裁判」

2020-11-02 06:25:55 | 映画の感想(さ行)
 (原題:THE TRIAL OF THE CHICAGO 7)アメリカ現代史における重要な事件を扱っているとのこと。しかし、映画を観る限りどうもピンと来ない。法廷劇らしいスリリングなタッチを期待していたが、題材へのアプローチや演出に問題があったとしか思えず、展開が平板で中盤あたりでは観ていて眠気との戦いに終始した。

 1968年8月。シカゴで開かれていた民主党の全国大会では、大統領選の候補者たちのベトナム戦争に対する見解をめぐって活発な議論が行われていた。同じ頃、会場近くのグランド・パークでは、ベトナム戦争に反対する多くの活動家や市民たちの集会が開催されていたが、その中の一部が民主党大会の会場に押しかけようとして警官隊と衝突する。この騒ぎで双方合わせて数百名の負傷者を出し、暴動を扇動した容疑でデモ参加者のうち、リーダー格のトム・ヘイデンをはじめ何人かが逮捕される。大陪審は彼らを起訴し、翌年9月より地裁にて公判が始まる。



 実際の法廷での質疑がどうだったのかは知らないが、ここで描かれる裁判の様子はメリハリが無く漫然と流れていくように思える。せいぜい当時の判事の無能ぶりがクローズアップされる程度で、映画的興趣に乏しい。弁護側と被告人たちとの情報共有や打ち合わせの描写も、何ら目立った進展が無く退屈なだけだ。

 前職の司法長官が証人として呼ばれるくだりでようやく盛り上がるかと思われたが、事態を打破する有効な決め手とはなり得ずにドラマは停滞する。裁判が長引いた挙句、ようやく終盤で事件の全貌が見え始めるのだが、これが釈然としない様相を呈している。今までの審議はいったい何だったのかと言いたくなるほどだ。こんな調子でラストに“感動的”みたいなモチーフを挿入しても、場が白けるだけだ。そもそも、本件では警官側の逮捕者も出ているのだ。そちらの顛末もフォローしなければ物語として不完全なものになるだろう。

 アーロン・ソーキンの演出は冗長で盛り上がりに欠ける。ヘイデンを演じる英国人俳優エディ・レッドメインには、アメリカ人のアンチャン役は似合わない。アレックス・シャープやサシャ・バロン・コーエン、ジョン・キャロル・リンチといった脇の面子も精彩を欠く。フランク・ランジェラやマイケル・キートンといったベテラン勢も、真価を発揮できていない。本国では好意的な受け止められ方をしているらしいが、何となく取り上げた題材のイデオロギー性だけで突っ走っている感じで、個人的には評価しがたい。
コメント
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