元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「朝が来る」

2020-11-15 06:58:15 | 映画の感想(あ行)

 物語の設定とキャストの演技は良いが、展開には難がある。大事なことは描かれておらず、どうでもいいことに尺が充てられている。さらに、内容に対して上映時間が長すぎる。とはいえ、興味を覚えるモチーフは確実に存在しているので、観て損したというレベルでは決してない。

 川崎市のタワーマンションに住む栗原佐都子は、夫の清和の体質により妊娠できないことを知り、子供のいない人生を歩もうとしていた。だが偶然に特別養子縁組の制度を知り、斡旋事業者“ベビーバトン”の仲介によって男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子と共に幸せな生活を送っていた。ある日、朝斗の産みの母である片倉ひかりを名乗る若い女から“子供を返してほしい”という電話がかかってくる。佐都子たちは一度だけひかりと会っていたが、当時はひかりは中学生だった。ところが訪ねてきたくだんの女は、かつてのひかりとは別人のように見えた。辻村深月の同名小説の映画化だ。

 予告編でも示されていたが、突然電話をかけてきた怪しい女に栗原夫妻が自宅で会うというのは、どう考えても不自然だ。これは電話を受けた時点で警察か、あるいは弁護士に相談すべき案件である。そもそも、ひかりの境遇に関しては多くの時間が割かれているものの、どうも要領を得ない。妊娠させた同級生との関係は曖昧で、その後相手がどういうオトシマエを付けられたのか不明だ。

 ひかりの“転落人生”は微温的で芝居がかっており、本当の修羅場には遭遇していないように思える。栗原夫妻の扱い方も全体的に冗長で、特に朝斗が幼稚園で友達にケガさせたのどうのという話は不要である。こんな調子でラストで感動しろと言われても、観る側としては戸惑うばかりだ。

 ただし“ベビーバトン”の運営の様子はとても興味深い。養子縁組に至る手順や、養父母に求められる条件、さらには過去に養子を迎え入れた実際の家庭の状況など、有益な情報が網羅されている。本作を観て大いに参考になる向きも少なくないのではないか。

 全体的に、脚本も担当した河瀨直美監督にとって、あまり合っているネタだとは思えない。脚色をリファインして別の演出家に任せた方が良かったと思う。とにかく各キャラクターに対する不自然なクローズアップの多用や、奥行きに乏しい白茶けた画面には閉口した。

 永作博美に井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、利重剛などのキャストはいずれも好演。とりわけ浅田のパフォーマンスには感心した。音楽は小瀬村晶が担当しているが、あまり印象に残らず。代わりにC&Kとかいうユニットによるテーマ曲が何度も流れるが、これが全然大したことが無いナンバーで、聴いていて鬱陶しく感じた。
コメント
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