元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「罪の声」

2020-11-22 06:55:50 | 映画の感想(た行)
 手際の良い作劇で、観ている間は退屈しない。キャストの好演もあり、2時間を超える上映時間もさほど長くは感じられなかった。ただし、エピソードを詰め込んだわりには映画の主題(と思われるもの)があまり見えてこない。これはたぶん、主なスタッフがテレビ畑の者たちであり、映画らしい思い切った仕掛けを用意出来なかったことが原因だろう。

 大阪にある新聞社の文化部に籍を置く阿久津英士は、すでに時効となっている昭和最大の未解決事件を追う特別企画のスタッフに選ばれる。当時の資料を頼りに取材を進めるうち、彼は犯人グループが脅迫電話に3人の子供の声を使ったことに興味を覚える。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中から古いカセットテープを見つける。



 さっそく再生してみると、聞こえてきたのは幼い頃の自分の声だったが、それはあの事件での身代金の受け渡しに使用された音声テープと全く同じであることが分かった。事件のことを調べ始めた曽根は、やがて阿久津と接触する。グリコ・森永事件をモチーフにした塩田武士による同名小説(私は未読)の映画化だ。

 本作においては、あの事件には60年代に日本を席巻した安保闘争が大きく関わっていることになっている。70年代初頭にその運動は頓挫したはずだったが、その残党が80年代になって“ある切っ掛け”によって活動を再開するという筋書きが背景のひとつだ。ならば映画としては、70年までと80年代以降との時代の空気感(特に、国民の政治に対する意識)の違いを、鮮明に打ち出す必要がある。

 しかし、ここでは当事者たちの単なる“私怨”で片付けられている。しかも、途中から事件のイニシアティブは犯行の片棒を担いだヤクザ組織に取って代わられており、これでは何のために安保闘争というネタを採用したのか分からない。そもそも、曽根の身内がどうしてそんなヤバい音声テープ等を廃棄せずに現在まで保管していたのか不明だし、阿久津が勤める新聞社が現時点でこの事件を取り上げた理由も判然としない。

 映画はそんな重要なことはサッと流し、曽根の家族および事件関係者の親族を中心にドラマを展開させる。これがまあ、いわゆる“泣かせ”の要素が満載で、過剰なほど繰り返される。それが一般観客の皆さんにはウケているようだが、本格的ミステリーを期待していた向きには、まるで物足りない。

 土井裕泰の演出には破綻が無いように見えるが、やはり“テレビドラマ的”であり、深みに欠ける。主演の小栗旬と星野源をはじめ、松重豊に古舘寛治、市川実日子、火野正平、宇崎竜童、梶芽衣子などキャストは充実している。若手では原菜乃華(園子温監督の「地獄でなぜ悪い」で印象的だった子役だが、いつの間にか成長している ^^;)と阿部純子の仕事ぶりが目立っていた。Uruによるエンディングテーマ曲も悪くない。
コメント
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