元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「グエムル 漢江の怪物」

2020-03-15 06:31:21 | 映画の感想(か行)
 (英題:THE HOST)2006年作品。決して出来の良い作品ではないが、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」(2019年)に繋がる製作動機のバックグラウンドを探る意味で興味深い映画である。しかも、怪獣映画という娯楽作品としての体裁を保ちつつ、作家性の発露にも手を抜いていない姿勢は認めて良いと思う。

 在韓米軍が主宰する研究所が、余った有毒物質を大量に漢江に投棄した。やがてソウルの漢江河畔に、正体不明の巨大生物の目撃例が報告される。そして休みを過ごす家族連れ等が川辺に集まった日、漢江から突如両生類に似た怪獣が上陸して人々を襲う。河川敷で売店を営むパク一家の末娘ヒョンソも、そのモンスターにさらわれてしまった。



 死んだと思われたヒョンソだが、怪物の巣である下水道から携帯電話で助けを呼んでいることが判明。パク一家は救出作戦に乗り出す。一方、在韓米軍は怪物は未知の病原菌を持っていると宣言。感染したとされるパク家の長男カンドゥを捕えようとする。

 怪獣映画にしては、タッチが暗い。もちろん、やたら明るくする必要は無いのだが、この辛気臭さはやりきれない。パク一家は当局側から追われながら怪物を退治しようとするのだが、設定こそスリリングながら演出のフットワークが重い。そして展開が遅い。終盤になってようやく盛り上がるが、そこまでの段取りがまどろっこしいため全体的な評価を押し上げるには至らず。

 しかしながら、この映画の設定にはこの監督らしさが出ている。パク一家の境遇は「パラサイト」の主人公たちと似ており、地下道の場面に多くが割かれているのも共通している。家族愛を前面に出していることも同様だ。カンドゥたちは金持ちに“寄生”したりはしないが、代わりに韓国社会にしっかりと“寄生”しているものが描かれている。それは米国だ。

 米軍は自らの失敗を覆い隠すように、病原菌だの何だのといったデマを流す。そして当然のように韓国側の捜査陣を牛耳る。このあたりの裏事情がパク一家によって明らかになるという展開は、韓国の観客にとって一種のカタルシスになるのだろう。彼の国では観客動員数1,300万人を突破し、歴代観客動員数第6位を記録したというのも納得出来る。

 演技陣では何といってもカンドゥ役のソン・ガンホが目立っている。ポン・ジュノ監督とのタッグも堂に入ったもので、活き活きとスクリーン上を動き回る。ピョン・ヒボンやパク・ヘイルといった脇の面子も良いのだが、デビュー作「ほえる犬は噛まない」(2000年)でも組んだペ・ドゥナの扱いは面白い。アーチェリーの選手でもあるカンドゥの妹ナムジュを演じているが、終盤にちゃんと見せ場を用意しているのは嬉しい。
コメント
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