元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スキャンダル」

2020-03-07 06:29:11 | 映画の感想(さ行)
 (原題:BOMBSHELL )元ネタのセクハラ事件の数年後に、このような実名入りの“ノンフィクション風ドラマ”を作り上げてしまったハリウッドの大胆さ(および抜け目のなさ)には驚くばかりだが、映画としては面白くない。特に前半の冗長な展開は眠気を誘う。中盤以降はいくらか盛り返すが、それでも観終わると釈然としないものが残る。テレビ画面で十分のシャシンかもしれない。

 2016年、FOXニュースの人気キャスターだったグレッチェン・カールソンは、同社を辞めた後にFOXニュースのCEOであるロジャー・エイルズをセクハラで告発した。この一報に衝撃を受けたのが現キャスターのメーガンで、実は彼女もロジャーから性的な嫌がらせを受けていたのだ。一方、メインキャスターの座を狙う若手のケイラは、ロジャーに会う機会を得る。だが、さっそく彼のセクハラ攻勢を受けて困惑する。事実を元にしたドラマだ。



 出来るだけ情報を提供しようという意図なのか、FOXニュースの内実の説明をはじめ各登場人物のプロフィールなどに割かれた部分が必要以上に多い。しかも、それらはあまり興味をそそられない事物だ。結果としてドラマのテンポは遅くなり、観る側は退屈を覚えることになる。

 ロジャーの所業が明らかになる後半になるとやっと物語が動き出すという感じだが、よく見れば単純な勧善懲悪劇である。権力を笠に着るクセの悪いオヤジが、それまで虐げられてきた女性陣にやり込められたという、痛快に思えるが“その程度の話”でしかない。

 FOXニュースが何をどう伝えてきて、その姿勢がどうしてロジャーという問題人物を生み出し、平気で女性陣を冷遇する“社風”に染まったのか。そんな大事なことをこの映画はまるで伝えない。政権批判に繋げたいような雰囲気もあるが、このレベルでは無理な注文だ。本作でメイクアップアーティストのカズ・ヒロはオスカーに輝いている。各キャストの見た目が“本物そっくりだから”という理由らしい。しかし、本国の観客ならばまだしも、こっちはその“本物”には縁が無いのでピンと来ないというのが実情。

 ジェイ・ローチの演出きキレもコクも無く、演技指導も上手くいっているとは思えない。シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーという人気女優を集め、敵役にはジョン・リスゴーを配するという贅沢なキャスティングながら、文字通りの“顔見世興行”に終わっている。やたらカラフルな映像デザインも、残念ながら作品の“軽量級らしさ”を強調するばかり。良かったのはコリーン・アトウッドによる衣装デザインぐらいだろうか。作品の主題にあまり合っているとは思えないが、それ自体にはとても訴求力があった。
コメント
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