元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カントリー」

2019-12-29 06:33:37 | 映画の感想(か行)
 (原題:COUNTRY )84年作品。派手な見せ場はなく、展開も抑揚に乏しいと思われるのだが、題材は興味深い。30年以上前の映画ながら、現在のアメリカの状況を暗示しているような内容だ。また各キャストも持ち味を発揮している。

 アイオワで農家を営むギルとその妻ジュエルは、小麦を収穫中に竜巻に襲われる。危うく難を逃れた2人だったが、収穫は激減してしまう。更生局はそんな彼らを助けるどころか、収穫代金を差し押さえる。地方管理官のフォーダイスからは、家や土地を手放して負債の精算をすすめられる始末だ。隣家の夫婦は自己破産に追い込まれ、ギルの助力もむなしく一家の主であるアーロンは自ら命を絶ってしまう。



 更生局は容赦なく収穫減額分の督促状をギルに送り付けるが、ギルはヤケを起こして家出。残されたジュエルは、父親のオーティスに励まされ、理不尽に競売を断行しようとする更正局と戦うことを決心する。彼女は同じ窮乏に喘ぐ農家を一人一人説得し、当局側と対抗すべく結束する。

 20世紀に入ってフロンティアの時代はとうに過ぎ、農民たちは目の前に広大な土地を見せつけられても、自身では開拓はできない。事業を始めるには資金がいる。当局側や金融機関は気前よく貸し付けているように思えたが、天災などで上手くいかなくなると全責任を農民たちに押し付け、資金の回収に走る。

 そんな理不尽な図式は現在も尾を引き、今や大規模化や機械化・省人化投資ができる大資本でなければ、この地域では農業は採算が取れないらしい。当然、一般ピープルの不満は募る。そんな中西部ラストベルトの状況に付け込んで票を掘り起こしたのがトランプの一派なのだろう。

 映画ではジュエルの奮闘により事態は好転する兆しを見せる。だが、それはあくまでも“局地的”なもので、全体を覆う抑圧的な空気はそのままだ。トランプ政権がこの状態をどれほど改善したのかはハッキリと分からないが、基本的な図式は変わらないと思われる。

 リチャード・ピアースの演出は地味だが、ドラマ運びに破綻は見られない。主演のジェシカ・ラングとサム・シェパードは力演で、当時2人は私生活でもパートナーだった。デイヴィッド・M・ウォルシュのカメラがとらえた中西部の風景は素晴らしく、チャールズ・グロスの音楽も効果的。特にサントラ盤は、当時トレンディ(?)だったウインダム・ヒルレーベルのミュージシャンを多数動員していたことを思い出す。
コメント
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