元・副会長のCinema Days

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「青の炎」

2019-12-01 06:26:01 | 映画の感想(あ行)
 2003年作品。演出は蜷川幸雄だが、映画監督としての蜷川の前作は81年製作の「魔性の夏」である。四谷怪談をモチーフとしたあの作品は、一時流行った“異業種監督”の例に漏れず、身勝手な“美意識”とやらを前面に押し出した失敗作であった。ところが、それから20年以上経って、貴志祐介のベストセラー小説の原作と二宮和也や松浦亜弥、鈴木杏といった当時の若手タレントをメインにしたキャスティングを得て、プログラム・ピクチュアの典型みたいな青春ドラマを手掛けたという、その心境は理解し難い。

 湘南に住む高校生の秀一は、母と妹の3人暮らしで平和な日々を送っていた。ところがある日、元義父が突然家に押し掛けてくる。その言動は徹底して傍若無人で、家庭は破綻寸前になる。法的手段に訴えても解決できない現実に我慢が出来なくなった秀一は、綿密な計画を練って義父を殺害。完全犯罪達成かと思われたが、同級生の拓也に見破られていた。弱みを握って強請ろうとする拓也に対し、秀一は新たな殺意を抱く。



 蜷川本人いわく“アイドル映画を作りたかった”のことだが、その言葉通り、平易なドラマ運びは演劇での異能ぶりを微塵も感じさせない。“どんなケレンを仕掛けてくるか”と身構えていた観客は拍子抜けである。とはいえ、叙述型ミステリーの佳作である原作をあまりいじらずに映画化している本作は破綻が少なく、誰が観ても納得できる出来にはなっている。

 そして文字通り“青”をベースにした画調は清涼感があり(撮影担当は藤石修)、主人公が住むロフトの佇まい等、舞台セットも捨てがたい。東儀秀樹の音楽も万全。母親役の秋吉久美子をはじめ、山本寛斎や中村梅雀といった大人の演技陣はミスキャスト気味だが、物語を引っ張る主演の二宮(これが映画デビュー作)の頑張りが印象的。鈴木杏や川村陽介も健闘している。

 ただし、秀一のクラスメイトを演じる松浦は典型的な“アイドル演技”で、大いに盛り下がる。まあ、彼女はこの頃のトップアイドルだったので話題性だけのキャスティングと思われる。これも致し方ない(笑)。
コメント
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