元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

映画を観ると人生が変わるか?

2019-12-13 06:53:21 | 映画周辺のネタ
 映画好きの中には“映画を観て人生が変わった”と公言する者が少なくないらしい。でも、果たして映画に観る者の人生を左右するほどの力があるのだろうか。私自身に限って言えば、たぶん幼少期や十代の頃には“愛情”とか“正義”とかいったことに対する基本的概念を映画から学んだ部分があるのかもしれない。しかし、本来そういうものは映画だけが教えてくれるものではなく、実生活での人間関係において自然に培われるべきものであり、映画で描かれることは単に“補完的な教材”といったものでしかないはずだ。

 また、現在映画業界で働く者にとっては特定あるいは複数の映画が今の職業を志望するきっかけになったと思われるので、その意味で“映画が人生を変えた”と断言できるのかもしれない。しかし、もとより業界にコミットしようなどとは思わない私を含めた大多数の人間にとって、映画は“単なる娯楽”であり、人生を変えるほどの影響力を行使する主体ではあり得ないのだ。

 世の中には周囲の人間関係ぐらいではカバーできない膨大な事物があふれている。ならば、それらを理解するのに役立つのが映画だろうか。これも違う。この世界を出来るだけ正しく認識しようとするならば、自ら精進して疑問点と格闘しながら少しずつ“教養”をステップアップさせるしかない。

 映画は受け手が何の努力をしなくても勝手に映像と音響が一方的に流れてゆく。いくら映画鑑賞には劇場に足を運んで金を払わなければ観られないという最低限の自発的行動が必要だといっても、形態において基本的に映画はテレビと変わらないのだ。対象者の受動的なスタンスを前提としたメディアに人を根源的に動かすパワーを期待するのは無理があると思う。

 しかし、映画が新しい知識や分野に興味を持たせてくれるきっかけとなることはある。たとえば歴史物や伝記映画を観れば物語の背景を調べたいと思うだろうし、見知らぬ国の珍しい習慣や伝統を映画で目にすれば内容を詳しくチェックせずにはいられない。映画の題材そのものだけではなく、映画の原作を読むことによって読書のバリエーションが増えることだってある。

 いろいろ書いてきたが、結論としては次の二点にまとめられる。(1)映画が人生を変えるほどの力を発揮することはまずない。(2)しかし、観る者の趣味や嗜好にわずかながら影響を与えるほどのスパイスには成り得る。映画はしょせん“娯楽”でしかないが、捉えようによっては人生をほんのちょっと楽しくするヒントになる(こともある)。ほとんどの者にとって、映画に対するスタンスはこういったものであろう。もちろん“人生を変えてくれる何かがあるはずだ”といった前提で映画を観るのは本末転倒であることは言うまでもない(まあ、そんな人はあんまりいないだろうけど ^^;)。
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