元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ギャングース」

2018-12-17 06:43:36 | 映画の感想(か行)

 入江悠監督の前作「ビジランテ」(2017年)に比べれば、質的に落ちる。だが、我々が直面する問題を真摯に捉えているという点で、ある程度は評価できる。それどころか、時事ネタをコンスタントに扱っていることは、この作家は現在の邦画界では貴重な存在とも言えるのだ。

 サイケ、カズキ、タケオの3人の若造は、親に捨てられ社会にも裏切られ、犯罪に手を染めた挙げ句に青春期のほとんどを少年院で過ごしていた。出所した彼らには身寄りも住む場所も無く、仕方なく各人の特技を活かしてヤクザや悪徳業者の収益金を強奪する“タタキ”と呼ばれる稼業に勤しむことになる。

 少年院時代の仲間が振り込み詐欺の片棒を担いでいることを知った3人は、その上前をはねるべく計画を練って実行する。一方、彼らはヒカリという少女と知り合うが、彼女は親から虐待されて家を飛び出し、行く場所も無い。成り行き上ヒカリを保護してしばらく一緒に暮らす3人だが、偶然にヒカリが犯罪組織の“顧客リスト”を見つけ、それが結果として彼らは裏社会の若き親玉である安達と相対するハメになる。

 原作漫画(私は読んでいない)はルポライターの鈴木大介による未成年犯罪者への取材をもとにしているらしいか、2時間の劇映画にまとめる必要上、十分に網羅されていたとは言い難い。3人の“タタキ”の遣り口は随分と御都合主義的である。

 大した苦労も無くターゲットを見付けるし、コンスタントに“仕事”をこなしても被害者側からの目立った報復は(後半の安達の一件を除けば)描かれない。敵役の安達にしても、カリスマ性も強力なバックもない青二才で凄みが感じられない。さらに、主人公達の説明的なセリフの多さも気になるところだ。

 だが、3人の境遇を通して社会的な病理を抉ろうという図式は良いと思う。貧困差別問題や独居老人の問題、多重債務で転落する者など、これらは突き詰めて言えば、他者や社会に対する無関心に収斂されるのだろう。せいぜいが自分よりも“下”の者を見付けてマウンティングに励む程度だ。それでも何とか矜持を保っている3人は見上げたもので、ラストの扱いなど共感出来る。

 入江の演出は荒っぽいが、勢いがあって観る側を退屈させない。今回も(終盤を除いて)舞台は自らのホームグラウンドである埼玉県の地方都市である点も、ポリシーを感じさせる。主人公達を演じる高杉真宙と加藤諒、渡辺大知は好演。林遣都や山本舞香、金子ノブアキなどの脇の面子も悪くない。
コメント
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