元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「斬、」

2018-12-28 06:32:06 | 映画の感想(さ行)

 やたら暗い画面に、手持ちカメラでの不安定な映像。それだけで開巻早々に観る気が失せた。救いは上映時間が80分と短いこと。もしもこの調子で2時間以上も続けられたら、途中で退場していたところだ。

 幕末期、江戸近郊の農村に都築杢之進という若い剣客が滞在していた。彼は腕も立ち、いつか世に出ることを願っている。そんな彼を隣家に住む少年・市助と村娘のゆうは慕っていた。ある日、澤村次郎左衛門と名乗る中年の侍が村に立ち寄り、杢之進の腕前に感心して彼を尊王攘夷勢力との戦いに誘うべく、江戸に同行することを依頼する。そんな折、無法者集団が村に侵入。次郎左衛門は彼らを撃退するが、後日悪者どもが仕返しにやってきて狼藉の限りを尽くす。杢之進と次郎左衛門は彼らを退治すべく、彼らのアジトに向かう。

 劇中、杢之進は実は人を斬る勇気が無いことが示され、そのモチーフに則って最後までストーリーが進むのだが、そんな彼がどうして幕末の動乱に身を投じようとするのか不明である。そもそも、若い侍が農家にホームステイ(?)している理由も分からない。

 杢之進とゆうは相思相愛に見えるのだが、彼の態度は煮え切らず、優柔不断だ。こういう者がいくら“人を斬れるようになりたい!”と独白しても、観ているこちらは“アンタは侍に向いていない”と冷たくあしらうのみである。次郎左衛門にしても、終盤に杢之進と対峙する理由が示されず、何を考えているのか判然としない。

 もしかすると、御公儀のために働くべき次郎左衛門自身が、こんな田舎でヘタレな若造や野盗どもと関わり合っていることで、ヤケになったのだろうか。前述のように、暗がりで刀を振り回す登場人物たちをブレたカメラで捉えても、カタルシスは生まれないばかりか、何がどうなっているのかも分からない。

 次郎左衛門役として出演もしている塚本晋也の演出は、画面と同様にブレがあって主題を見出しにくい。もしも“なぜ人は人を斬るのか”ということを突き詰めたいのならば、別のアプローチがあったはずだ。また、セリフ回しを現代風にしたことも違和感を覚える。

 主演の池松壮亮と蒼井優は健闘していたが、この2人の実力をもってすれば、その好演は“想定の範囲内”でしかない。第75回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門出品作品だが、無冠に終わったのも納得できるような内容だ。
コメント
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