元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「愛してる、愛してない...」

2017-12-02 06:31:32 | 映画の感想(あ行)

 (原題:A la folie... pas du tout )2002年作品。オドレイ・トトゥ主演の可愛いラヴストーリー・・・・と思ったら大間違い。これは近来まれに見るホラー映画の快作だ。大ヒットした「アメリ」(2001年)のイメージを覆す役柄をチョイスしたトトゥの“覚悟”というか“計算”というか、そんなしたたかさが垣間見えるシャシンである。

 ボルドーの美大に通うアンジェリクには、外科医であるロイックという恋人がいる。交際は順調であると思われたが、実はロイックには弁護士で妊娠中の妻ラシェルがいて、現在離婚訴訟中だ。アンジェリクはロイック邸の家に住み込むことになり、たまに彼がデートに来られなかった時も、ロイックを信じている。しかし、彼が妻と仲むつまじくしている様子を目撃してから、アンジェリクの言動がおかしくなってくる。

 何より物語を三部構成にしているのがポイント高い。妻帯者であるハンサムなロイックと主人公との“失恋話”を、まずはヒロイン側から描き、次に同一時制を相手側から描く。思い込みの強い女の子の恋愛話が実はグロテスクなサイコ・サスペンスだったことを、同じエピソードを異なるアングルから捉えることによって鮮やかに観客に提示してみせる脚本の巧みさ。その複眼の視点は実に新鮮だ。

 第三部は客観的な描写に移行するが、テンションの高さはいささも衰えず、直接的なショッカー場面こそないものの、シチュエーションの設定や小道具の使い方に絶妙の冴えを見せる。そして主人公の“正体”が明らかになり、何とか物語は収束されたかと思わせて、最後の最後にショッキングな場面を持ってくる仕掛けには感心した。

 シナリオも担当した女流監督レティシア・コロンバニはこれがデビュー作だが、何と当時は26歳の若さだった。凄い才能が現れたものだと思ったが(しかも美人 ^^;)、彼女はこれ以降映画を撮っていないのは残念だ。

 オドレイ・トトゥは「アメリ」のキャラクターと似て異なるエキセントリックなヒロイン像を好演。特に印象的なのは、冒頭近くで好きな男のためにバラの花を注文する場面で、配達に出る店員に一瞥もくれずに去ってゆく場面で、“目的以外のことには我関せず”と言わんばかりの表情は本当にコワい。サミュエル・ル・ビアンやイザベル・カレー、クレマン・シボニーといった脇のキャストも万全だ。
コメント
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