元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シコふんじゃった。」

2017-06-23 06:26:33 | 映画の感想(さ行)
 91年作品。公開当時の角界はいわゆる“若貴フィーバー”が巻き起こり、相撲が一種トレンディな扱いを受けていた。とはいっても、映画の題材としては、これほど不向きなものはないと思う。第一キャスティングはどうするのか。そんなに太った役者を集められるわけはない。それに実際の大相撲の面白さに対し、フィクションである劇映画が勝てるわけがない・・・・。ところが、この映画はそういうマイナス要因をいとも簡単に吹き飛ばし、立派に相撲を娯楽映画の素材として料理してしまった、日本映画では珍しい熱血スポーツ映画の快作だ。

 軟派な生活を送る大学四年生の山本(本木雅博)は、要領よく就職も決めたものの、卒業には少し単位が足りない。そこで相撲部の顧問である教授(柄本明)から単位取得を条件に、廃部寸前の相撲部に入部して試合に出場することを義務づけられる。最初は適当にやっていた山本だが、仲間も増え、次第に相撲の面白さに目覚めていく。



 奇をてらったり、色物ばかりに走ったりの寄り道は無し。実にストレート、竹を割ったようなストーリー展開だ。テンポのいいセリフの応酬も小気味よい。舞台を大学相撲にすることにより、相撲向きでない体型の本木でも違和感がない。

 各登場人物が実にいい味を出している。緊張すると下痢になる大学八年生のヘンな先輩(竹中直人)、山本のハンサムな弟(宝井誠明)と彼に恋する太った女の子(梅本律子)、名誉マネージャーの夏子(清水美沙)、試合相手もバラエティに富み、無駄なキャラクターが一人もいない。

 主人公たちがどんなに頑張っても素人の悲しさ、最初の試合では惨敗してしまう。そんな弱い自分たちが悔しくて、いつしか夢中で稽古するようになる。その奮闘ぶりはおかしくも感動的だ。クライマックスのリーグ戦では、アメリカ映画のお株を奪う盛り上がりを見せる。出演者も相当に訓練を重ねたのだろう。手に汗握る見せ場の連続で、笑いながらも目頭が熱くなる。

 古くさい精神論や安っぽい根性の押し売りなどは皆無。それでいてスポーツ映画の勘どころを押さえたスカッと爽やかな好篇だ。周防正行監督も、この頃は才気が漲っていた。なお、この映画のモデルとなった立教大学相撲部は、映画と同じく3部リーグ下位を低迷していたが、映画のロケが終わった直後の大会でなんとリーグ優勝してしまったらしい。
コメント
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