元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ヒメアノ~ル」

2016-06-11 06:18:18 | 映画の感想(は行)

 ラブコメとサイコホラーの“二本立て”という、その構成が面白い。もっとも、後半のサイコホラーの部分はあまり上等な出来ではないが、ラブコメとの対比の妙によってあまり気にならなくなってくる。こういう作り方はまさにアイデア賞ものだ。

 将来に不安を抱きつつもビル清掃会社のパートタイマーとして冴えない日々を送る岡田は、ある日職場のヘンな先輩である安藤から、想いを寄せるコーヒーショップの店員ユカとの恋のキューピット役を頼まれる。渋々引き受ける岡田だが、キモい安藤をユカが気に入るはずもなく、あえなく断られてしまう。ところが、どういうわけか彼女は岡田の方を好きになり、安藤には内緒で付き合うことになる。

 一方、ユカが働くカフェには森田という風体の怪しい男が毎日客として通っていた。森田は岡田の高校時代の同級生であり、岡田は彼が昔手酷いイジメに遭っていたことを思い出す。森田は“ある事実”をネタにしてかつてのクラスメイトの和草を強請っていたが、森田の態度を忌々しく感じていた和草は、婚約者の久美子と共謀して森田を殺害しようとする。古谷実による同名コミック(私は未読)の映画化だ。

 前半のラブコメの部分は楽しめる。仲介役をやるハメになった主人公が、思いがけず“漁夫の利”を得ることになり、知らぬは依頼元の安藤だけという設定は、ベタだがけっこう笑える。しかも、安藤のキャラクターがすこぶるいい加減で、反面すこぶるピュアだという、アンビバレンツなスタイルを見事に体現化しているのがケッ作だ。

 また、一見清純そうなユカが実はかなりの“肉食系”で、それを知った岡田が困惑してしまうのもおかしい。さらに、登場人物たちが“普通の生活”を夢見ながらも、自らの甲斐性を勝手に見切ったように非正規雇用に甘んじているあたり、当世の若者気質を垣間見るようで切なくなってくる。

 さて、森田が中心となって展開する後半の血しぶき満載の修羅場は、ハデだがイマイチ盛り上がらない。それは、彼が平気で人を殺すようになったのは、学生時代のイジメが原因であることが明示されているからだ。どんなに異常な言動を見せつけられても、底が割れてしまってはインパクトは弱い。しかも、過去のトラウマが彼を悩ませていることを、過度に平易な描き方で片付けられているのは気勢が削がれる。この点、得体の知れない暴力が横溢する「ディストラクション・ベイビーズ」と比べれば、かなり見劣りすると言えよう。

 サイコホラーのパートが斯様に冴えないものならば、いっそのこと全編(エッジの効いた)ラブコメにしてしまった方が良かったかもしれない。とはいえ吉田恵輔の演出は、過去の諸作より語り口が上手くなっている。主演の濱田岳や森田剛、佐津川愛美も好演。特に安藤に扮するムロツヨシはまさに怪演で、観ていてかなり盛り上がる。野村卓史による音楽も効果的だ。
コメント
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