元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「熱波」

2013-11-16 07:16:09 | 映画の感想(な行)

 (原題:Tabu)どんなに波瀾万丈の人生であっても、いかにドラマティックな体験をしようと、最後は皆死の床に就く。激しい恋も、大いなる野望も、最期の時を迎えれば全てが過ぎ去った日々だ。それどころか、山あり谷ありの非凡な人生を送った者ほど、人生の終盤が誰からも顧みられないものである場合、その落差に愕然とし逡巡する。人の一生の玄妙さを綴ったミゲル・ゴメス監督による佳編。観る価値はある。

 映画は二つのパートに分かれる。第一部「楽園の喪失」は現在のリスボンが舞台になる。一人暮らしの中年女ピラールのアパートの隣室には、短気でギャンブル好きの老女アウロラが無口なメイドのサンタと住んでいる。アウロラは偏屈で刹那的。とても付き合いきれない人物だ。娘が一人いるらしいが、ロクに面会にも来ない。

 ピラールはそんな彼女の面倒を幾度となく見るのだが、ある日アウロラは病に倒れる。彼女は死ぬ前にある人に会いたいと告げるのだが、それは今では老人ホームに入っているベントゥーラという男だった。アウロラの死後、彼はピラール達に若い頃アフリカで過ごした二人の危険なアバンチュールについて語るのだった。

 第二部の「楽園」はベントゥーラの一人称によって、遠い過去の出来事が綴られる。正直言って、第一部はあまりにもドラマ運びが淡々としていて退屈である(眠気さえ覚えた ^^;)。しかし、それはすべて熱いパッションに満ちた第二部への“伏線”だったのだ。

 アフリカの旧植民地、若きアウロラは実業家の夫と共にこの地にたどり着く。事業は成功し、前途洋々に見えたある日、彼女は流れ者のベントゥーラと知り合う。アウロラが野性的な彼に惹かれたことに端を発する愛憎のドラマが展開。二転三転する筋書きは、思わぬ悲劇で幕を閉じる。

 第二部は音楽とサウンド・エフェクトのみで登場人物のセリフは一切流れない。老いたベントゥーラのナレーションのみだ。もちろんそこで語られるものは彼自身の追想であり、客観的な事実では有り得ない。しかし、アウロラの過去は現在の姿からは想像も出来ない、別世界のものであることは示される。彼女の“心”は、この頃に息絶えてしまったのだ。

 不遇な日々と折り合いを付けながらも何とか生きているピラールやサンタと、遠い時代に“自分”を置いてきてしまったアウロラそしてベントゥーラとは、一体どちらが幸せなのだろうか。そんな想いが充満し、いたたまれない気持ちになった。

 ミゲル・ゴメスの演出は強靱で、盛り上がるべきところでも全く破綻を見せない。テレーザ・マドルーガやアナ・モレイラ、カルロト・コタらキャストの仕事ぶりも申し分なく、何よりモノクロ画面の清冽な美しさが強く印象に残る。
コメント
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