元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「任侠ヘルパー」

2012-12-15 07:00:14 | 映画の感想(な行)

 テレビドラマの劇場版で、主役はSMAPのメンバー。観る前は何とも軟派な印象を受けてしまうシャシンだが、これがどうして、実に重いテーマを扱っていて見応えがある。先入観だけで断定するのは禁物だと改めて思ったものだ(笑)。

 極道あがりの翼彦一は堅気として生きようと一度は決心するものの、勤め先のコンビニでのトラブルにより逮捕されてしまう。刑務所の中で元ヤクザの老人と知り合った彼は、その老人の紹介により出所後は静岡県の港町を根城にする極鵬会に身を寄せる。そこで彦一は身寄りの無い老人たちに法外な利子で金を貸し、返済できなかったら劣悪な介護施設に放り込んで生活保護費や年金をピンハネするという、阿漕なシノギをまかせられる。しかし、昔ながらの極道である彼はそんな悪辣な稼業に我慢が出来ず、施設を立て直そうとするが、当然のことながらその行為は極鵬会との対立に繋がっていく。

 まず、この暴力団の“闇介護ビジネス”のイヤらしさに驚かされる。もちろん多分に誇張されてはいるのだろうが、似たような非道が実際に行われているらしいことは聞いている。また、このネタが映画で取り上げられるのは初めてではないだろうか。犠牲となる老人達の描き方もリアルで、観ていて身を切られる思いがする。

 また、彦一と知り合うシングルマザーの葉子は認知症の母親を抱えて苦労している。幼馴染みの議員のコネで最新の設備を誇る病院に母親を入れることが出来るが、いい加減な処置により病状は悪化。このあたりの展開も手加減が無く、葉子を取り巻くシビアな状況がレアな形で観客の前に差し出される。

 彦一に扮する草なぎ剛は好演で、優男なのにスゴ味があるという微妙な役柄を上手くこなしいてる。しかも、昔気質の渡世人を気取ってはいるが行動は暴力的かつ短絡的で、トータルで見れば世の中に迷惑を掛けており、本人もそれを薄々分かっているが自分ではどうしようもないという屈折した心情を滲ませているのも出色だ。

 映画は終わり近くになると無理に主人公のヒロイズムを前面に出そうとして、ドラマ運びに不自然さが生じており、重要なキャラクターであるはずの香川照之演じる議員の扱いも中途半端な面があって、作劇のヴォルテージが落ちてくる。乱闘シーンの段取りやキレ味もイマイチだ。しかし、選定された主題は大きく、社会保障の問題は今後ますます重要になってくることも考え合わせると、本作の存在感は決して無視できない。

 そして、設備と費用さえあれば解決できるというものでもなく、介護する者とされる者との血の通ったコミュニケーションがなければ画餅に帰してしまうことも示される。

 沈滞しきった地方都市の有り様はうまく描けている。葉子役の安田成美は力演で、風間俊介と夏帆の若手コンビも良い。
コメント
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