元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋人たちのアパルトマン」

2012-12-09 19:28:00 | 映画の感想(か行)
 (原題:Fanfan)93年フランス作品。夢想家のアレクサンドルと奔放な女の子ファンファンとの恋のさやあてを描く。監督は小説家として知られ、本作が初の映画となる1965年生まれのアレクサンドル・ジャルダン。

 観る者を感動させるような秀作でもなく、才気あふれる先鋭的な作品でもない。でも、不思議と無視できない映画である。それは主人公アレクサンドルのキャラクターによるところが大きい。彼はいつも恋愛を素晴らしい遊びの思い出にしておきたい性格だ。同棲し、婚約をしている相手もちゃんといる。でも、いざとなるとまったく煮えきらない。

 物事をすべて他人事としてとらえ、自分からは動かない。徹底的にモラトリアム。わざと真剣な恋にはハマらないようにしている。手ごたえのない毎日だが、自堕落というのでもない。はた目には立派にカタギの生活。対外的には“好青年”で通っている。ただ、空想だけが彼にとってリアルであり、“現実”は空想のモチーフに過ぎない。



 こんな彼が初めて本当に好きになるファンファンはサーカスの芸人であり、自由に生きているように見えて、しかし実際は本当の意味で“自由”になれない不満を持っている女の子だ。二人はお互い好きなのに、性格が邪魔して素直になれない。

 アレクサンドルの性格が最もよくあらわされているのは、後半、彼がファンファンの部屋の隣に住むようになるくだりだ。彼女が入居する前に、彼は部屋を隔てる壁をすべてマジックミラーにしてしまう。彼女からは鏡だが、彼には相手がまる見えだ。二人の奇妙な“共同生活”が始まる。彼女が入浴するとき、彼もフロに入る。彼女が鏡に向かって音楽に合わせてダンスの練習をすると、彼も彼女と向かい合って踊りまくる。好きでたまらないのに、彼女の生活を覗き見て彼女と同じ行動をとることで、二人だけの甘い生活を夢想してしまうアレクサンドル。ヘタするとただの変態だが、あくまでも爽やかな青春映画タッチが巧妙にカバーする。

 ジャルダン監督は、この作品を撮るにあたって、不特定の若い男性にアンケートをとり、この主人公像を考え出したという。若い層にはアレクサンドルのようなキャラクターは少しも異常ではないらしい。なるほど、誰にでもそんなところ無くはないな・・・・とは思う。好きな相手とは付かず離れず、ただ空想にひたっているのは楽しいし第一気苦労がない。でも、彼女のプライベートを覗き、彼女のハダカを盗み見て、いったい彼女の何を知ったというのだろう。当然、主人公はあとできっちりオトシマエをつけられる。

 映画ではハッピーエンド。でも、実際こういうシチュエーションでメデタシメデタシで終わるとは限らない。夢想から現実へと踏み込むことの難しさ。でも、それをやり遂げたときの楽しさ。軽いタッチで難しいテーマをこなした、味のある小品だ。アレクサンドルに扮するのはヴァンサン・ペレーズ、ファンファンを演じるのはソフィー・マルソー、共に好演だ。
コメント
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