元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「私の胸の思い出」

2008-07-23 06:33:35 | 映画の感想(わ行)

 (原題:天性一對)第22回福岡アジア映画祭出品作品。突然乳ガンを宣告されたキャリアウーマンの苦悩と再出発を描くロー・ウィンチョウ監督による香港映画だが、とにかく深刻な題材にもかかわらず過度に脳天気な展開に呆れるばかりである。まあ、極端に深刻ぶって大仰な“泣かせ”に走る韓国映画よりはマシだが、こうも脳みそにシワがないような与太話を押しつけられると、重大であるはずのテーマ自体も限りなく“軽く”思えてくるのだから困ったものだ。

 いくら広告業界の第一線に身を置く多忙な状況とはいえ、自分の命に関わることを何の逡巡もなく二の次・三の次にして目先の雑事にとらわれてしまうヒロインの非・聡明ぶりに呆れてしまう。かと思えば女友達二人の痴話喧嘩がクローズアップされたり、妙にタイミング良く昔の恋人が現れたと思ったらケチな寸借詐欺に関与していたり、さらに彼女と仲良くなる軟派な医者が性的不能に陥って心理療法を受けているとか何とか、どうでもいいようなネタが延々と続く。

 もちろん彼女自身も悲観して練炭自殺を二度も試みるとかいった描写も出てくるのだが、どうも本気で悩んでいるようには思えず、取って付けたような印象しか残らない。終盤にはライバル会社との広告コンペのエピソードなんかも挿入された後、彼女が手術を受けることを決意するくだりで終わるのだが、このラストでようやく“ああ、これは難病ものだったんだ”と思い出す観客もいるかもしれない(笑)。

 主演のミリアム・ヨンは確かにキャリアウーマンっぽいが、どうもガサツであまり可愛くない。相手役のリッチー・レンは論外。たとえて言うならば“自分をカッコいいと思っている売れないホスト”である(爆)。結論としては、観る価値のあまりない映画だと片付けてよかろう。ジョニー・トーがプロデュースしているのに、この出来映えには脱力する。

 さて、福岡におけるアジア映画祭の“元祖”であるこの映画祭だが、今やこれから派生して“本家”の地位を得るに至った9月のアジアフォーカス福岡国際映画祭の完全に後塵を拝するようになっている。いくら“ボランティアによる運営”を謳い文句にしようが、大事なのは出品映画の質だ。もちろん私はすべての作品を観ているわけではないが、ここ数年間この映画祭で良い映画に出会った記憶はない。そろそろ映画祭の存続を含めて、真面目に今後の方針を議論したらどうだろうか。
コメント
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