元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

最近購入したCD(その15)。

2008-07-20 07:09:07 | 音楽ネタ
 今回は女性ヴォーカル三題。まず紹介したいのが、ハンガリーの若手ジャズ歌手ハルチャ・ヴェロニカの2枚目になるアルバム「ユー・ドント・ノウ・イッツ・ユー」。最近買ったディスクの中では間違いなく一番インパクトが高い。実は彼女がこの前に出したアルバムデビュー作「スピーク・ロウ」も聴いているが、スタンダード曲をずらりと並べて分かりやすさを狙ったつもりが凡庸なアレンジとノリの悪さは如何ともしがたく、見事にハズしてしまった。今回はそれを反省(?)してか、全編彼女の作詞作曲による完全オリジナル作品で勝負しているが、何とも素晴らしい出来だ。



 ジャンルとしては一応ジャズなのだが、あらゆる分野の音楽からの影響が窺われる。もちろん各ジャンルからの“モチーフの寄せ集め”では決してない。東欧的なエキゾチシズム、特にジプシー音楽にも通じる深くダークな、それでいて情熱的な盛り上げ方には屹立したオリジナリティが感じられる。どこかジャニス・ジョプリンの面影を残す重量感を伴ったハスキーな声(しかし、可憐な一面も感じられる)で、驚くべき旋律展開の自在さに乗せて聴き手を挑発してゆくような大胆さは、どこかビョークやケイト・ブッシュ、ニナ・ハーゲンあたりの異能女流アーティストを思い出させてしまう。ジャケット写真や彼女自身のホームページに載っているポートレートなどで見られるような、まるでグラビア・アイドルみたいな容姿とサウンドとのギャップも凄く、本当に要注目のミュージシャンであると思う。奥行きのある録音も良好だ。

 マンハッタン・トランスファーのメンバーであるシェリル・ベンティーンは以前からソロ活動が目立っていたが、今回リリースした“彼女自身がスタンダードだと考える楽曲”のカバー集である「ソングズ・オブ・アワ・タイム」は、万人にアピールできるクォリティの高い作品だ。すでに数多くのジャズ系ミュージシャンが取り上げているカーペンターズの「マスカレード」や「クロース・トゥ・ユー」、シンディー・ローパーの「タイム・アフター・タイム」などのお馴染みの曲が続く。サザンの(レイ・チャールズ版を元にした)「いとしのエリー」のカバーまで入っている。



 通常これだけポピュラーなナンバーばかりを集められると、いきおい“お買い得感”は増すが、ムード音楽のような“お手軽感”も募り、結局は飽きてしまうことも考えられるのだが、そこはベテランの味、噛めば噛むほどテイスティーな興趣が滲み出てくる。奇を衒うようなアレンジも出てこない代わりに、正攻法に曲自体の魅力を訴えるスタンスは徹底しており、柔らかく滑らかな声質と共に、何とも言えないリラックス感が漂う。特筆すべきは録音で、厚い低音を基調にしたピラミッド型の帯域バランスであり、とても聴きやすい。オーディオ装置のチェック用にも適している。

 フィラデルフィア出身の若手ジャズ・シンガーソングライター、メロディ・ガルドーのデビュー・アルバム「Worrisome Heart 」(邦題:夜と朝の間で)はすでにCDショップなどで前面にプッシュされているので、ジャケット写真ぐらいは目にした音楽ファンも多かろう。内容も大々的にプロモーションされるに相応しい充実作だ。オリジナル曲中心で、これが本当にメロウで甘い。仕事に疲れて帰宅した夜、寝る前に心身を落ち着かせるのにピッタリだ。



 基調はフォークやブルースで、声はややハスキーながら高音が伸びて心地良い。押しの強さこそないが、いつまでも聴いていたくなるような魅力を持つ。ショップでは“ちょっと大人っぽいノラ・ジョーンズ”みたいな惹句が付いているものの、はっきり言ってN・ジョーンズより実力は上だ。ガルドーはまだ20代前半の若さで、今後が楽しみな人材である。なお、フル・アルバムながら収録時間は30分強ほどしかなく、そのため値段も千円ちょっとだが、昔のジャズのLPはたいていこの程度の長さしかなかったのだから、それを考えるとかなりコスト・パフォーマンスは良好であろう。録音も堅実で、広く奨められる一枚だ。
コメント
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