元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「インサイド・マン」

2006-09-10 07:25:59 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Inside Man)世評は高いようだが、個人的には凡作だと思う。

 冒頭、ニューヨークの銀行を襲った犯人(クライヴ・オーウェン)が暗い場所から意味ありげなモノローグを披露する時点ですでにオチが分かってしまう。だいたい「インサイド・マン」なんてタイトルからしてネタバレではないか(爆)。犯人グループが人質全員に自分たちと同じ服を着せてしまうという仕掛けも、どっかの小説かマンガで読んだような気がするし、斬新さはゼロである。

 現場を指揮する刑事(デンゼル・ワシントン)や、裏を取り仕切る女弁護士(ジョディ・フォスター)の扱いは通り一遍で、事件の“真の背景(らしきもの)”も、ハッキリ言って“またこの手の話かよ!”とタメ息が出るようなシロモノだ。

 映画は犯行の様子と平行して、事件が終わった後の人質からの事情聴取のシーンが映し出されるが、事件が派手なドンパチや思いがけない展開なしに収束したことを早々に明かしているという意味で、これもネタバレだ。犯罪映画の醍醐味を削いでしまっている。

 監督はスパイク・リー。私は彼を“ずっと以前に終わった作家”だと思っているが、今回の映画を観てもその認識は変わらない。ひとつひとつの描写はエッジが効いていても、全編にわたって観てみると平板でメリハリがない。シークエンスの繋ぎ方が漫然としすぎているのだ。これじゃ退屈なシャシンしか作れない。

 さらに“スパイク・リーは音楽の使い方が非凡”との定説が間違いであることが今回ハッキリした。漫然とした展開に合わせるような、印象希薄なBGMが鳴り響いているだけ。そのへんの活劇専門職人監督(?)の音楽デザインにも負ける。ではなぜそういう“定説”が長い間流布されてきたのか。それは彼が“冒頭タイトル曲の扱いだけは上手い”という事実による。今回の、インド音楽をテーマ曲に使うセンスも相当なものだ。しかし、それがあまり印象に残りすぎて、本編のサウンド処理の凡庸さがマスキングされただけである。逆に言えば、数分の曲を効果的に聴かせる“プロモーション・ビデオの作り手”の才能しかないということだ。
コメント
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