元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「私はガンディーを殺していない」

2006-09-26 06:50:01 | 映画の感想(わ行)

 アジアフォーカス福岡映画祭2006出品作品。ボンベイの大学を定年退職してから痴呆症にかかった元教授と、必死で父を看病する娘との関係を描く、本年度のムンバイ国際映画祭の国際批評家連盟賞受賞作。

 単なる老人介護の問題を扱った映画と次元を大きく隔てるキーワードになるのは、薄れゆく記憶の中で父親が繰り返す“私はガンディーを殺していない!”という言葉だ。ガンディーが暗殺されたときは父親は8歳で、もちろん事件に関わっているはずもない。しかし、やがて明らかになる意外な真相、そして父親の妄想を緩和するために医師達が仕掛ける“模擬裁判”のプロセスと結果により、作品はインドの近代史をも俯瞰する奥深いテーマを垣間見せてくるのである。

 特に“模擬裁判”が終わった後に父親がおこなう“弁明”には、オリヴァー・ストーン監督の「JFK」における終盤のケヴィン・コスナーの演説に匹敵するほどの衝撃を覚えた。そうなのだ。インド人に限らず、我々が今直面する問題のほとんどは、ガンディー暗殺とその事実を捉える現代人との関係性に代表されるような歴史的な“図式”によるものなのである。

 老人介護という市井のレベルの事柄から始まり、主題として終盤に巨大な姿をあらわす本作品の構造は強靱かつしたたかだが、家族の問題を出発点にしているのは“歴史”が身近な市民生活と同居していること、またそう成らざるを得ないことを真摯に描こうとしているからに他ならない。

 シネスコの画面を軽々と使いこなすジャヌ・バルアの演出は堅牢きわまりなく、主役のアヌパム・P・ケールとウルミラー・マートーンドカルの演技は素晴らしい。文学教授だった父親がよく口ずさむ“勇気を持つ者は敗北することはない・・・・”という詩が美しさの限りだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

書き込みを再開します。

2006-09-26 06:47:58 | その他
 本日よりブログの更新を再開します。

 まだまだけっこう忙しいので、毎日書き込めるかどうか分かりませんが、今後ともヨロシクお願いします ->ALL。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする