元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

ドナルド・E・ウェストレイク「斧」

2006-09-07 06:50:09 | 読書感想文
 リストラされた中年男が、再就職のライバルとなる他の応募者6人の皆殺しを図るという、常軌を逸した行動を一人称で描くピカレスク小説。

 まず、仕事や家庭の安寧といった自分を支えるものが消失した時、人間これほどまでに正気を失うのかと慄然とした。もちろんこれはフィクションであるが、それが絵空事には思えないほど、本書は歪んだリアリズムに満ちている。暗いユーモアをたたえ一見自嘲的に繰り出されるテンポの良いモノローグの連続の裏に隠された凄まじい狂気を、徐々にあぶり出してゆく作者の力量には感服した。

 特に、狙うのは“具体的な再就職口をめぐる椅子取りゲームの参加者”ではなく、単に“一般世間的に自分より能力が上の連中”というのが怖い。それを達成するため彼は業界誌にニセの求人広告まで出し、それに応募した“彼と同じスキルを持つ者”をターゲットとするのだ。その過程がまた読者に必然性があるように思わせる妙な理屈を伴っているから始末が悪い。

 凄惨な話なのに文体はノリが良く、最後まで一気に読ませる。ラストの脳天気なまでの処理は呆気にとられるが、にもかかわらずジットリとした重さが残るのは、誰しもこの主人公のようにならないとも限らないという、シビアな現実がしっかりと存在するからだろう。「このミステリーがすごい!」の2001年海外編で第4位ランクインの異色作である。
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親王御誕生は、まことに目出度い。

2006-09-07 06:45:04 | 時事ネタ
 皇室にやっと親王御誕生か。よかった。本当によかった。あの胡散臭い「皇室典範に関する有識者会議」のゴリ押しを食い止める意味でも、実にお目出度いニュースだ。

 しかし、小泉首相は相変わらず「将来は女系天皇にしなければ皇位継承が困難になる云々」などと眠たいことを言っている。もしも女系天皇になったところで、ある意味もっと皇位継承がヤバくなることは前にも述べたが、それ以前に皇位がずっと男系で継承されてきた「歴史」をまるで顧みていない。こんなに「歴史」を軽視するような奴に、涼しい顔で靖国に参拝してもらいたくはないね。

 小泉の寝言は別にして、皇室典範は「改正」されるべきだとは思う。御誕生は目出度いが、これからは親王殿下たった一人で皇位を維持しなければならなくなる可能性が高い。将来何があるか分からない。女系天皇などという安易な泥縄式の対策ではなく、二重・三重の安全弁を「歴史」「伝統」を十分考慮しつつ用意すべきであろう。もちろん「皇室典範に関する有識者会議」のような拙速は絶対ダメだ。時間を掛けて、冷静に議論されることを望みたい。
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