1968年に起こった3億円強奪事件と青春恋愛ドラマをからめた映画だが、幸いなことに“全共闘世代のノスタルジィ”とやらに染まった気色の悪さは微塵も感じられない。それどころか大人になりきれない当時の若者達をクールに突き放して描いている。まあ、監督の塙幸成は1960年代生まれなのでそれは当然だが、観る側としてはホッとした(笑)。
イデオロギー云々の話も出てこず、現状を脱却しようと藻掻くヒロインの成長に徹底して密着する。いちおう、リーダー格の若者との淡いアバンチュールが描かれるが、観終わってみればあまり印象に残らない。作者からすれば親や社会と対立するかのように見えて、実はその関係に拘泥するばかりの若造どもはハナっから興味の対象外だったのだろう。
演じる宮崎あおいの存在感は相変わらず素晴らしく、中盤以降は彼女のプロモーション・フィルムみたいになってくる(爆)。クライマックスの強奪シーンなど、ほとんど“一人芝居”だ。それだけドラマを全部自分の方に引っ張ってくるパワーを持ち合わせているということだろう。邦画界では得がたい人材である。
塙監督は「tokyo skin」で見せた東京の街の濃密な空気感をここでも画面に十分漂わせることに成功。しかも少ないセットで時代背景を的確に演出しているのには感心した。
関係ないが、ヒロインの兄役に宮崎あおいの実兄である宮崎将が“またしても”扮しているが、もっと他の仕事を見つけないと“妹のヒモ(?)”と呼ばれる日も遠くないのではと、いらぬ心配をしてしまった(^^;)。