元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「白い風船」

2006-02-09 20:49:00 | 映画の感想(さ行)
 95年のカンヌ映画祭で新人賞を受賞したイランのジャハル・パナヒ監督作品で、セールス・ポイントは脚本をアッバス・キアロスタミが担当していること。子役の使い方にかけては神業的なイラン映画の真髄(?)をたっぷり見せてくれる。

 大晦日、7歳の女の子ラジェは市場でカラフルで大きな金魚を見かけ、欲しくてたまらなくなる。でも何かと物いりな年末の時期、金魚ごときに出す金はないと母親は相手にしない。そこで10歳の兄が助け舟を出し、見事に母親から金を出させることに成功。金を握りしめて市場に走るラジェだが、途中、意地悪な蛇使いのおじさんに邪魔されたり、お菓子屋の店頭に並ぶ美味しそうなケーキに心を動かされたり・・・・。果たして彼女は無事に金魚を買って帰ることができるのでしょうか(笑)。

キャストは全員素人で、ドキュメンタリーに近い自然さを出すために演技指導はほとんどしていない。しかし脚本通り物語がスムーズに運ぶのは、キアロスタミの必殺技の“キャストを取り巻く状況をドラマそのものにする”が効いているためだ。ラジェに扮する子役は本当に金魚が欲しくなり、本当に道中で悪戦苦闘するのである。

 こういう展開を見ていると、ドラマのために必死で大仰なプロットを作ろうとするハリウッド映画のやり口がアホらしくなってくる。大げさな設定よりも、日常の何気ないやり取りの中にこそ大いなるスペクタクル性が内包されているのだ。

 やっとたどり着いた市場で彼女はお金を落としたことに気付く。見知らぬおばさんの手助けでお金を見つけるが、その瞬間お金は他の店の前の溝へ落ちてしまう。店の主は休暇でいない。大晦日なので誰もが家路を急ぎ、子供の相手なんかしてくれない。さて、どうなるか・・・・(^^)。

 また、正月になっても帰るところがない帰還兵士や、身寄りの無い風船売りの少年の登場は、単なる児童映画に終わらせない社会派的な深みをも作品に与えている。そしてホロ苦いラストの見事なこと。

 それにしても、ヒロインの兄はどうやって母親から金を出させたのだろう? 劇中ではセリフは意図的に聞こえなくしてあるし・・・・気になるなぁ(^_^;)。
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長期金利と名目経済成長率

2006-02-09 20:45:23 | 時事ネタ
 2005年末の経済財政諮問会議で、長期金利より名目経済成長率を高めに見通している従来の政府見解に対して「楽観的すぎる」との異論が相次いだらしい。これまでより成長率を厳しく見れば歳入の伸びは鈍り、金利を高く見れば国債の利払いによる歳出はより増える。このため、異論に沿って見解を見直すと、財政再建の見通しも厳しくはじく必要がある。(2006年1月4日 朝日新聞)

 たぶんマスコミとしては、関係者をこの「長期金利が名目GDP成長率より高くなる派」と「同、低くなる派」とに単純分割して“さて、どちらが勝つかなァ”と高みの見物を決め込むつもりだろうが、ハッキリ言ってマスコミも経済財政諮問会議のメンバーの連中も脳天気に過ぎるスタンスである。

 彼らはそもそも問題の意味すら分かっていないのだろう。確かに長期的スパンで見れば、長期金利は名目成長率にインフレ率が上乗せされた水準にあり、よって物価水準がプラスにシフトしてゆく限り長期金利のほうが名目成長率よりも高くなる。対して実際の成長率が高く見込まれた高度経済成長期などには、名目成長率が長期金利を上回る局面があった。しかし、こんなのは単なる「結果論」あるいは「現象面」での話でしかない。当事者としてそれを“どっちが高くなるのかなァ”と“予想”しているだけで果たして良いのか。

 “予想”なんてのは評論家に任せておけばいい。経済財政諮問会議のメンバーがやるべきことは、長期金利と名目成長率を“予想”することではなく、実際に“どうするか”、つまりは、名目GDP成長率をどうやって上げるかを提案しなければ話にならない。

 竹中平蔵は“4%は伸びるんじゃないか”と寝ぼけたことを言ってるが、名目GDP成長率をアップさせる具体的施策を何も実施せず、デフレ基調を放置して名目成長率がそんなに上向くはずがないではないか(注:名目成長率=実質成長率+インフレ率)。まさか構造改革の促進とやらで何とかなると思っているんじゃないだろうな。竹中の脳内で構築された“サプライサイド経済学”ではそうなるのかもしれんが、実体経済において構造改革(生産性向上)が国の経済マクロを押し上げた事例など(少なくとも我が国では)存在しない。

 本気で名目GDP成長率を上げようと思うのなら、やるべきことは“過去の歴史”が証明している。だが、政治家もマスコミも(意識的か無意識的かは知らないが)それを完全に無視している。“長期金利が名目GDP成長率より高くなるのかなァ。ならば増税も仕方ないなァ”という“予想”の世界で遊んでいるうちに、国民生活は苦しくなる一方だ。いい加減、茶番はやめてもらいたい。
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