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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ドント・ウォーリー・ダーリン」

2022-12-04 06:24:12 | 映画の感想(た行)
 (原題:DON'T WORRY DARLING )設定としては過去に何度も使われたネタであり、新味は無い。そしてもちろん、驚きも無い。ただ御膳立てに若干の現代的なモチーフを挿入していることと、キャストの健闘によってそれほど気分を害さずには観ていられる。また舞台セットや大道具・小道具の品揃えも非凡なところがあり、映画の“外観”に限っては決して悪いものではない。

 カリフォルニア州の近辺と思しき沙漠の真ん中にあるビクトリーの街に、アリス・チェンバーズは夫のジャックと暮らしていた。隣近所は彼らのような若夫婦で占められており、夫たちは毎朝車に乗って荒野の彼方にある“職場”に出勤してゆく。日中は妻たちは気ままに過ごし、経済面や健康面では何一つ不自由を感じることはない。



 だが、この一見完璧な生活が保証された街のあり方に疑問を抱いていた隣人が、赤い服の男たちに連れ去られるところをアリスは目撃する。それから彼女の周囲では理屈では説明できない現象が続出。ある日、飛行機が墜落していくのを見た彼女は、現場を確認するために街外れの丘まで行ってみるが、そこで正体不明の施設を発見する。

 登場人物の衣装・風俗は1950年代のそれで、夫たちは妻に“仕事”のことを話すことはない。しかも、子供がいる家庭は皆無だ。街の首長はフランクと名乗る男だが、いかにも胡散臭い風体だ。この現実感希薄な舞台を見せつけられると、少しでも映画を見慣れている者ならば“これはひょっとしてアレじゃないのか”と予想するはずだ。いや、映画ファンでなくても勘が良ければ想像は付くだろう。そして実際、アレなのだから世話は無い(苦笑)。

 ただし、アリスをはじめとしてこの街に住む妻たちがどうしてこの地にたどり着いたのか、その背景にはアップ・トゥ・デートな味付けが施されている。そして何より、レトロなビクトリーの街の佇まいは捨てがたい。アリスの友人役として出演もしている監督のオリヴィア・ワイルドは、快作「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」に続く2回目の仕事だが、ドラマ運び自体は申し分ない。だが、ストーリーがあまりにも陳腐なので見せ場もなく終わっているような気がする。

 アリス役のフローレンス・ピューは好調で、終盤のアクション場面も難なくこなす。ジャックに扮しているのはワン・ダイレクションのメンバーとして知られるハリー・スタイルズだが、俳優業もイケることを証明。クリス・パインにジェンマ・チャン、キキ・レインといった他のキャストも悪くない。
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「土を喰らう十二ヵ月」

2022-11-28 06:25:28 | 映画の感想(た行)
 主人公のような生活と人生観には到底行き着くことは出来ないが、少なくとも映画を観ている間は“こういう生き方も悪くないじゃないか”と思わせてくれる。斯様な無理筋のキャラクター設定を(一時的にでも)観る者に納得させてしまえば、映画としては成功していると言えよう。そして映像と大道具・小道具の御膳立てには抜かりは無く、鑑賞後の印象は良好だ。

 初老の作家ツトムは、長野県の山奥で一人暮らし。畑で育てた野菜類や、山で採れる山菜やキノコ類を料理して自給自足の生活を送っている。彼を訪ねて時どき担当編集者の真知子が東京から訪ねてくるが、彼女はツトムの恋人でもある。だが、彼は13年前に他界した妻の遺骨を墓に納めていない。そんな中、近くに住む亡き妻の母親が逝去し、ツトムは葬式を仕切るハメになる。水上勉の料理エッセイ「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に劇映画として仕上げられた。



 ツトムは典型的な世捨て人で、真知子とは仲が良いが末永く付き合おうとは思っていないようだ。彼にとって世を去った妻の存在がどれだけ大きかったのかは明示されないが、たとえ生きていたとしても俗世と距離を置いたスタンスは変わらないだろう。単身人里離れた山荘に住むツトムの生活は、常人には付いていけない。もしも何かあったら、ただちに命の危険に繋がる。

 しかしながら、オーガニックな食事と共に四季の移り変わりを実感しながらマイペースに執筆活動をおこなうというのは、ある意味理想の生き方とも言える。たとえ不可抗力でそんな日々が途絶えたとしても、すべて責任を自分で背負って静かに退場するだけだ。

 演出・脚本を担当した中江裕司は、快作「ナビィの恋」(99年)で日常世界を離れた一種の桃源郷を描いていたが、舞台は違うものの今回もその姿勢は一貫している。そして本作では、それを納得させるような仕掛けの上手さがある。料理研究家の土井善晴が監修した精進料理の数々は、どれもすこぶる美味そうだ。しかも、食材の採取から調理手順に至るまで丁寧に示している。松根広隆のカメラによる信州の風景は痺れるほど美しく、観ているこちらにも清々しい空気が伝わってくるようだ。

 主演の沢田研二はさすがに年齢を重ねたが、決してショボクレた年寄りには見えないのは昔はスターとして鳴らした彼のキャラクターによるものだろう。真知子役に松たか子も凜とした好演だ。西田尚美に尾美としのり、檀ふみ、火野正平、奈良岡朋子などの脇の面子も手堅い。
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「手」

2022-11-05 06:23:10 | 映画の感想(た行)
 当初の予想通り、面白くなかった。日活ロマンポルノ50周年を記念し、現役の監督3人がそれぞれ作品を手がけた“ROMAN PORNO NOW”の第一弾だが、以前の45周年を記念した“日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”がそうであったように、現時点でのロマンポルノの在り方を煮詰めないままゴーサインが出たような案配だ。ならば観なければ良かったのだが、若い頃に(限られた期間ながら)けっこう成人映画に接した身としては、あえてチェックする必要があると思った次第である。

 若いOLのさわ子はの趣味は、中年男性の写真を撮ってコレクションすることだ。今まで付き合ってきた男もオッサンばかり。しかし父親とはうまくコミュニケーションが取れず、一緒にいても打ち解けることは無い。そんな中、同世代の仕事仲間の森が彼女にモーションをかけてくる。山崎ナオコーラによる同名小説(後に「お父さん大好き」に改題)の映画化。

 要するにヒロインはファザコンってことだろう。父親との仲がギクシャクしているから、代わりにそのへんの中年野郎たちに興味を覚えていただけの話。語るに落ちるような設定で、何の面白みも無い。で、思いがけなく若い男と交際するようになり、ほんの少しモノの見方が変わったような気がしたと、つまりはそういうことだ。

 もちろん、筋立てが単純でも語り口が上手ければ文句は無いのだが、松居大悟の演出は平板で盛り上がりに欠ける。たとえば前半、さわ子が妹のリカと2人で、それまでに撮ったオッサンの写真の整理をしている場面があるが、これは主人公の屈折した心情とイレギュラーな家族関係を表現するのに絶好のシークエンスでありながら、スクリーンから感じられるのは弛緩した空気のみだ。

 また、森とのアバンチュールも表面的で退屈。言葉や表情でそれらしく取り繕っても、情念やエロティシズムは表現できない。さらに致命的なことに、さわ子に扮する福永朱梨には魅力が感じられない。セリフは棒読みでリアクションも鈍く、おまけにプロポーションは良くない。リカ役の大渕夏子の方がまだマシだ。

 相手役の金子大地も手持無沙汰の様子だし、津田寛治や田村健太郎、金田明夫など他のキャストもパッとしない。また、本作の上映時間は約1時間40分だ。かつてのロマンポルノの多くが1時間強で簡潔に仕上げられていたことを思えば、違和感を覚えずにはいられない。
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「トム・ホーン」

2022-10-23 06:55:25 | 映画の感想(た行)
 (原題:Tom Horn)79年作品。60年代から70年代前半にかけて稀代のアクション・スターとして名を馳せたスティーヴ・マックィーンも、74年の「タワーリング・インフェルノ」を最後に映画製作の現場から一時期離れている。そして久々にスクリーンに復帰した頃に撮られたのが本作だ。しかしながら、往年の活劇編とは完全に趣を異にする大人しすぎるタッチで、公開当時は低評価だったらしい。まあ、正直それほど面白くはないのは確かだが、マックィーンの心境の変化が垣間見えるという意味では、存在価値はあるだろう。

 19世紀末のアメリカ西部で凄腕のガンマンとして知られたトム・ホーンは、訪問先のワイオミング州のハガービルで大牧場主のジョン・コーブルから牛泥棒の駆逐を依頼される。ホーンは早速そのオファーを引き受け、その地域に蔓延っていたならず者どもを一掃する。だが、彼の名声を妬んだ連邦保安官のジョーは、ホーンに少年殺しの濡れ衣を着せて抹殺しようとする。実在した凄腕のバウンティ・ハンターを描いた伝記映画だ。



 とにかく、全体を覆う沈んだ空気には戸惑ってしまう。アクション場面といえば牛泥棒を片付けるシーンぐらいで、あとは主人公を陥れようとする連中の辛気くさい悪巧みや、ホーンが一人で悩んでいる様子などの気勢の上がらない描写が延々と続く。そして、史実通り映画はダウナーな空気を纏ったままエンドマークを迎えるのだ。

 マックィーンは本来内省的で信心深い男だったと伝えられる。往年の華々しいスターの姿は虚像だったのかもしれないし、娯楽映画での仕事が一段落した後に静かな作品をも手掛けたかったという可能性もある。本当のところは分からないが、いずれにしろ一世を風靡した役者でも、そのイメージを生涯引きずることは無いということだろう。ウィリアム・ウィヤードの演出は良く言えば静謐だが、盛り上がりには欠ける。

 ジョン・A・アロンゾのカメラによる茫洋とした西部の荒野や、アーネスト・ゴールドの渋すぎる音楽も相まって、どこかヨーロッパ映画のような佇まいを感じさせる。リンダ・エヴァンスやリチャード・ファーンズワース、ビリー・グリーン・ブッシュ、スリム・ピケンズと共演陣は割と粒が揃っているが、派手なパフォーマンスはさせていない。そのあたりも作品のカラーに合っている。
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「旅立ちの時」

2022-10-01 06:22:26 | 映画の感想(た行)

 (原題:Running on Empty)88年作品。高い人気を誇りながらも若くして世を去った俳優リヴァー・フェニックスの代表作は何かと聞かれれば、大抵の人は「スタンド・バイ・ミー」(86年)だと答えるのだろうが、あれは“主要登場人物の中の一人”という扱いだ。純粋な主演作としては、この映画こそが彼のマスターピースだと思う。

 主人公ダニーは両親と弟と暮らす、一見平凡な高校生だ。しかし、この一家には誰にも言えない重大な秘密があった。実は彼の両親は、60年代に反体制派の活動家としてテロ行為に手を染めた容疑で、FBIから指名手配されていたのだ。そのためダニーは幼い頃から各地を転々とし、そのたびに名前や髪の色を変えるなどして世間から身を隠していた。だが今回の引っ越し先であるニュージャージーの高校では、音楽教師からピアノの才能があることを認められ、音大への進学を奨められる。さらには教師の娘であるローナと恋仲になり、初めて普通の若者らしい生活を手に入れるかに見えた。だが、両親のかつての同志が突然訪れ、秘密をばらそうとしたことで事態は急展開する。

 監督が社会派サスペンスの名手であるシドニー・ルメットであることは少し意外だった。幾分社会問題風のネタに触れているとはいえ、このような青春ドラマと相性が良いのかどうか判然としなかったのだ。しかし、実際観てみるとルメットのスクエアーな演出力が、R・フェニックスの清新でナイーヴな持ち味と合致し、目覚ましい求心力を発揮していることに驚いた。

 マトモな人生を歩むことを小さい頃から遠ざけられてきた主人公が、思わず直面した転機に戸惑い、そして悩む。その内面の逡巡が観る者に痛いほど伝わってくる。一方で両親の昔の仲間が引き起こす事件には、この監督の持ち味である骨太なドラマ構築力が活きて、目が離せない。そしておそらくは観客の目頭を熱くさせたと思われるラストシーンでは、演者のパフォーマンスと揺るがない演出が見事にマッチし、大いに盛り上がる。

 R・フェニックスと交際していたと言われるマーサ・プリンプトンをはじめ、クリスティーン・ラーティ、ジャド・ハーシュ、ジョナス・オブリーら他のキャストも万全。トニー・モットーラの音楽とジェリー・フィッシャーの撮影は及第点。なお、原題の“ランニング・オン・エンプティ”とは“空っぽの状態で走り続ける”といった意味だが、個人的にはジャクソン・ブラウンの同名のヒット曲(77年リリース、邦題は“孤独なランナー”)を思い出してしまった。
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「タップス」

2022-09-25 06:16:00 | 映画の感想(た行)
 (原題:TAPS)81年作品。アメリカ映画界では、70年代末からベトナム戦争に題材を求めたものが目立ってきた。当然のことながら、それらは反戦のメッセージを伴っていたり、国家と戦争、および個人の関係性をシビアに捉えたものばかりである。本作はベトナムものではないが、戦争の実相を描出しているという意味で、確実に当時のトレンドの中に位置する一本である。

 マサチューセッツ州バンカーヒルにある全寮制の陸軍幼年学校は、開校以来約150年にわたって12歳から18歳までの少年たちを軍のエリートに育成する役割を担い、実績を上げてきた。ところが夏休みを前にした時期に、当学校は次年度いっぱいで閉校になることが発表される。ミリタリー・アカデミーは時代錯誤な存在であるという世論が大きくなり、土地開発のために廃止が決まったのだった。



 そんな折、校長のベイシュ将軍が過失致死傷の容疑で逮捕されたのを切っ掛けに、学校の即時閉鎖が決定される。納得できない生徒会長のブライアンは、在校生に呼びかけて武装した上で抗議の籠城に踏み切る。学校の周りを包囲した州軍の指揮官カービー大佐が説得にあたるが、生徒たちの決心は固かった。デヴァリー・フリーマンによる同名小説の映画化だ。

 幼年学校とはいっても、本格的な訓練が実施されるために戦争を始められるような大量の銃火器が学内に保管されていることに驚かされる。もちろん生徒たちには目的外使用は固く禁じられてはいるが、彼らもそれらは教材に過ぎないと思っている。ただし反面、究極的にはその兵器は社会規律を遵守するための道具として機能させるものであることも叩き込まれている。ならば彼らの身近に社会正義に反する事態が勃発した際は、実力行使も辞さないという思考形態に行き着くことも、十分考えられるのだ。

 生徒たちが信じるのは秩序と名誉である。だがそれは個人が作り出すのではなく、国家が認めたときに初めて発生する。国家、つまりは“公”の概念の基本になるものをスルーしてしまえば、どんなに大義名分があろうとも、兵力の行使はただの犯罪に過ぎない。ならば国家自体に秩序と名誉を担うだけの資格が無い場合はどうなるのかというと、それもまた戦闘行為は不当なものであるという主張をも、この映画は訴えている。

 どんなに崇高な目的があっても、登場人物たちの目の前で展開するのは生身の人間が犠牲になる地獄絵図だ。彼らは自分たちが信じてきた認識が間違っていたことを知るのだが、一方で実力行使を目的化した極端な考えに走る者もいる。そのような行為が終盤の惨劇に繋がるのだが、それもまた人間の多面性の一つだと達観しているあたりが本作の意識の高さを示している。

 ハロルド・ベッカーの演出は強靱で、観る者を最後まで引っ張ってゆく。ジョージ・C・スコットやロニー・コックスらベテランはもとより、ティモシー・ハットンやショーン・ペンなど、当時売り出し中の若手が顔を揃えているのも見どころだ。またデビュー間もないトム・クルーズが重要な役で出ているのも要チェック。オーウェン・ロイズマンの撮影、モーリス・ジャールの音楽、共に万全だ。
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「トップガン マーヴェリック」

2022-07-10 06:06:57 | 映画の感想(た行)
 (原題:TOP GUN:MAVERICK)いかにもトム・クルーズ主演作らしい、大雑把で能天気なシャシンだ。そのことを割り切った上で気楽に楽しめれば文句は無いのだろうが、あいにく当方はそんなに素直な性格ではない(笑)。突っ込むべき点は遠慮なく突っ込ませていただく。少なくとも“ジェット機の轟音が鳴り響けば、それで満足”といった次元からは距離を置きたい。

 伝説の戦闘機乗りであるピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐が、若き精鋭たちの指導に当たるためノースアイランド海軍航空基地の教官として現場復帰する。彼が担当するプロジェクトは、某“ならず者国家”が建設中のウラン濃縮プラントの壊滅に向けての要員養成だ。着任早々、彼は訓練生たちと衝突。しかも彼らの中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に殉職した戦友グースの息子ルースターの姿もある。前途多難だが、基地司令官が昔の相棒であるトム・“アイスマン”・カザンスキーであったことから、マーヴェリックは職務に専念せざるを得なくなる。



 まず、いつからアメリカ海軍の将校はヘルメット無しでバイクをぶっ飛ばしても良いことになったのだろうか。映画限定の作り話かもしれないが、危機管理上はアウトの案件だ。また、劇中の“ならず者国家”とはいったいどこなのか。まさかロシアや中国に米軍が直接手を下すわけにもいかないので、イランか北朝鮮なのか。しかし、どう見てもあの基地は違うように思う。

 しかも、敵の戦闘機はたぶんSu-57だ。この機体はロシア以外には配備されていないはずだが、どういう事情なのだろうか。また、第五世代ステルス戦闘機が簡単にレーダーに映ってしまう不思議。ついでに言えば、米軍のF/A-18がSu-57に空中戦で互角に渡り合えるとも思えない。そして、なぜか敵基地に“あの飛行機”が完動品として保管されているという謎設定。

 クライマックスの敵基地攻撃のシークエンスは、明らかに「スター・ウォーズ」のエピソード4(77年)のパクりである。さらに言えば、その元ネタであるイギリス映画「633爆撃隊」(1964年)の類似品でもある。あと、主人公と恋人のペニーとのアバンチュール(?)は、日本のラブコメも真っ青なワザとらしさだ。

 ジョセフ・コジンスキーの演出は平板で、戦闘シーン以外は気合いが入っているとは思えない。トム御大扮する主人公をはじめ、誰一人として血の通ったキャラクターはいない。まるで皆ゲームの中のパーソナリティのようだ。ジェニファー・コネリーにヴァル・キルマー、ジョン・ハム、エド・ハリスなどキャストは駒を揃えているが、印象に残る演技は見つけられない。

 レディー・ガガによる主題歌も、ほとんど記憶に残らない。なお、トニー・スコット監督による前作(86年)はリアルタイムで観たはずだが、使用楽曲以外は内容はまったく覚えていない。それだけ大味でコクの無い映画だったということだが、本作もいずれ忘却の彼方に消え去ることだろう。
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「峠 最後のサムライ」

2022-07-08 06:21:32 | 映画の感想(た行)
 これはヒドい。まったく映画になっていない。キャラクター設定はもちろん、話の進め方、キャストに対する演技指導、映像処理etc.すべてにおいて落第だ。いくら監督が一時期は実績を残したベテランの小泉堯史とはいえ、この出来映えではプロデューサー側は冷徹に“お蔵入り”あるいは“撮り直し”といった決断を下すべきではなかったか。とにかく、今年度ワーストワンの有力候補であることは間違いない。

 1867年の大政奉還により、260年余り続いた江戸幕藩体制は終焉を迎えたが、国内では新政府勢力と旧幕府軍との戦乱が勃発していた。そんな中、越後長岡藩の牧野家家臣・河井継之助は双方いずれにも属することなく中立を保とうとしていたが、いつの間にか官軍側と相対するようになる。司馬遼太郎の長編小説「峠」の映画化だ。

 冒頭、徳川慶喜に扮した東出昌大がいつもの通り棒読みのセリフを披露する時点で、早くも映画全体に暗雲が立ちこめる。さらに河井継之助の挙動不審ぶりが遠慮会釈なく展開されるに及び、鑑賞意欲が大幅に減退。とにかく、主人公像がまったく練り上げられていないのには参った。継之助は越後長岡藩の中立化と独立を望んでいたらしいが、具体的にそれがどういうものだったのか、最後まで説明されない。そして、官軍と一戦交えることになった動機も明かされることはない。

 また、藩の軍事責任者であったにも関わらず、知見の乏しさには呆れる。夜中に密かに八丁沖を渡って奇襲をかけるはずが、その行程は怒号が飛び交う大人数での移動だったり、せっかく調達したガトリング砲を使いこなせなかったり、極めつけは“西には信濃川があるから官軍はやって来ない”と勝手に判断したものの、いざ敵が川を渡って迫ってきた時に“何ィ!”と目を剥いて驚いたりと、素人ぶりを大いに発揮している。

 戦いが終わって自ら“決着”を付けようとするくだりも、要領を得ない言動に終始。主人公がこの有様なので、あとのキャラクターは推して知るべしだ。見事に全員が“ただそこにいるだけ”であり、何の存在感も無い。合戦シーンは少しも盛り上がらず、登場人物たちが決死の覚悟で刃を交す場面も見当たらない。小泉の演出はメリハリが無く、平板そのものだ。

 そもそも、かなりの長編である原作(私は未読)を2時間程度に収めようとしたこと自体、大間違いである。戊辰戦争時に40歳代であった継之助を60歳代の役所広司が演じるのは違和感があるし、役所より20歳以上年下の松たか子が妻に扮するのもオカシイ。香川京子に田中泯、永山絢斗、芳根京子、榎木孝明、渡辺大、佐々木蔵之介、井川比佐志、吉岡秀隆、仲代達矢など配役はかなり豪華だが、見せ場らしい見せ場も与えられていない。

 やたら粒子の粗い映像は奥行きが無く、見た目も汚い。加古隆の音楽は印象に残らず、石川さゆりの主題歌も取って付けたようだ。本作を観ると、もはや我が国にはマトモな時代劇を撮れる人材がいないことを痛感する。とにかく、とっとと忘れてしまいたい映画だ。
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「小さな泥棒」

2022-06-24 06:11:48 | 映画の感想(た行)
 (原題:LA PETITE VOLEUSE )88年作品。本作は「なまいきシャルロット」(85年)などで知られるクロード・ミレール監督が、この頃アイドルから大人の女優へ脱皮する時期を迎えていたシャルロット・ゲーンズブールを、前作に続いて起用した作品である。確かに、主人公像にはまったく共感できないものの、ゲーンズブールの存在感だけは際立っており、その意味では存在価値のある映画だ。

 1950年、フランス中部の小さな町で伯父夫婦と暮らす16歳のジャニーヌは、盗み等の非行に明け暮れる無軌道な日々を送っていた。父親はおらず、母親は5年前に彼女を残して家を出ている。ある日、彼女は教会でお布施を盗もうとしているところを捕まってしまい、伯父宅にいられなくなる。住み込みのメイドの職を見つけるが、彼女の素行の悪さは治らず、再び盗みを働いた挙句に泥棒仲間のラウールと逃亡の旅に出る。だが、道中でジャニーヌだけが逮捕され矯正院に送り込まれてしまう。



 この映画の原案を担当したのはフランソワ・トリュフォーだ。おそらくトリュフォーが監督していたら、悪事を重ねる主人公の中にある若者らしい苦悩や逡巡を掬い上げていたと思われるが、正攻法の作劇が身上のミレール監督では、ヒロインは単なる不良娘としか描かれない。金目の物を見つけると盗むことしか考えず、男関係もとことんだらしない。いくら生い立ちが不幸だろうと、言い訳できる余地はない。彼女を取り巻く人間関係も、妙に図式的だ。

 ところが、これをゲーンズブールが演じると何となくサマになってしまう。あの人生投げたような表情と捨て鉢な振る舞いだけで、何か深いものがあるのではないかと(実際は映画的にそんなことは描かれてはいないのだが ^^;)、納得したくなってくるのだ。ラストはジャニーヌの“成長”を表現しているようでいて、中身は従来通りである(笑)。

 ミレールの演出はストレートだがコクや艶は無い。しかし、結果的にその点はあまり瑕疵は表面化していないと言える。ディディエ・ブザスやシモン・ド・ラ・ブロス、ラウール・ビルレーといった脇の面子は悪くはないが、最も印象的だったのは劇中で主人公が矯正院で出会う親友モリセットを演じたナタリー・カルドーヌだ。ある意味、ゲーンズブールを上回るほどのフレッシュな魅力を感じる。ただ、彼女の本職は歌手なので今に至るも出演作は多くは無いのが残念だ。
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「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」

2022-06-11 06:15:05 | 映画の感想(た行)
 (原題:DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERSE OF MADNESS )この映画を楽しめるには、条件が2つあると思う。ひとつは、本作の“前日譚”のようなディズニー提供のテレビミニシリーズをチェックしておくこと、そしてもうひとつは、監督サム・ライミの持ち味を承知した上で、それを無条件で許容出来ることだ。なお、私は2つともクリアしていないので、当然のことながら評価は低い。

 「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(2021年)で禁断の呪文によって時空を歪ませてしまったドクター・ストレンジことスティーヴン・ストレンジだが、マルチバースの“暴走”は留まることを知らず、今や世界的危機にまで発展してしまった。かつて恋仲であったクリスティーン・パーマーの結婚式に出席していた彼は、突如現れた一つ目の怪物と対峙する。その怪物が狙っていたのはアメリカ・チャベスと名乗る少女だったが、彼女はスティーヴンが前夜に見た夢に出てきたキャラクターだった。



 チャベスはマルチバースを移動する能力を持っているらしく、この混乱した事態に対処出来るキーパーソンになるかもしれない。そんな中、スティーヴンの前にマルチバースを利用するために立ちはだかったのは、スカーレット・ウィッチことワンダ・マキシモフだった。

 唐突にワンダが悪役に回った事情は、くだんのテレビシリーズで説明されているらしいが、こちらは知ったことではなく、ただ困惑するだけである。ワンダの“家族”に関しても、本作を観ている限り全く要領を得ない。そんな彼女が、ストレンジだけではなく異次元に移動してのヒーロー諸氏相手の大立ち回りを見せるのだが、カタルシスとは無縁だ。そもそもアメリカ・チャベスというキャラクターの登場自体、唐突に過ぎる。

 後半は各マルチバースに存在するストレンジと対立したり共闘したりといったバトルロワイアル状態になるが、その中にゾンビ版ストレンジも混じっていて、映画は一気にライミ監督の出世作「死霊のはらわた」シリーズの再現モードに突入。これは作者が楽しんで撮っていることは分かるのだが、困ったことにヴォルテージは「死霊のはらわた」(特に第二作)に遠く及ばない。単に過去にやったことを繰り返しているだけだ。

 この懐メロ路線(?)の展開だけで喜んでしまう往年のホラー映画ファンならば話は別かもしれないが、多くの観客は戸惑うばかりだろう。終盤の扱いなど、まるでドラマを乱雑に放り投げたような感じだ。

 ベネディクト・カンバーバッチにエリザベス・オルセン、キウェテル・イジョフォー、ベネディクト・ウォンといったレギュラーメンバーには新味は無い。チャベス役のソーチー・ゴメスも“華”に欠ける。観終って、果たしてマルチバースというモチーフがマーベル映画にとって有効だったのか、かなり疑問に思えてきた。
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