http://bikereviews.com/2010/03/soul-cycles-vegas-2010-29er-full-suspension-mountain-bike/
これはイメージということで。
ローレシオ
とは?
私の文では結構多用していますね。ローレシオは英語で書くと
LOW(低い)RATIO(比率、割合)
で、直訳すれば
低比率
という意味です。
では何が何に対して低比率なのか?それは
ホイールの動き量(トラベル)に対しての、ショックアブソーバーユニットの動き量(ストローク)。
ということです。
http://www.german-a.de/de/kilo.html
これは基本的にリヤサスペンションにのみ使われる言葉です。というのもフロントはテレスコピック式(テレスコピック式はテレスコープ、すなわち望遠鏡のようにスライドして、伸び縮みするということなんですが、ホイールが動く総量とショックアブソーバーユニットが動く量が全く同じです。)が主流で、ローウィルやアンプ、ハリーキャットなどのリンク式フロントフォークは全くと言っていいほど使われていないからです。ジャーマンAでもです。これらはみな、時代の波に消えていった存在と言っていいでしょう(まだジャーマンAはいますよ)。
本題に入る前にちょっと注意書きを。
サスペンションを色々言う人もいますが、自転車業界ではサスペンション、またはユニットがそのものを指しています。
ユニットをショックアブソーバーというのは、モーターサイクル畑の人ですね。この場合スイングアームやらリンク、アブソーバー諸々全て含めてトータルの構造体をサスペンションを呼称します。
フロントサスペンションの場合、フォーク自体にすべてのシステムが入っているので、サスペンションとそのままでもイイみたいです。多分ここらへんが誤解の原因かと。自転車はサスペンションでは後発組ですから。
ちなみにトラベルとストローク、違いが分かりますか? トラベルというのはハブ軸がどれだけ動いたか?=ホイールがどれだけ動いたか=サスペンションの総動き量です。対してストロークとはショックアブソーバーがどれだけ動いたかを表す言葉です。
これもフロントフォークが原因でしょうね。リヤはトラベルとストロークはイコールではないですが、フロントはそれだけですべて完結しているので、トラベルとストロークはイコールなのです。
はい、ではスタートです。相変わらず長いですよ(苦笑)。
モーターサイクルを見てみても、フロントフォークの基本はテレスコピック式ですね。 BMWのようにテレレバー式という変わり種もありますが、例外中の例外です。剛性、重量、スペースの兼ね合いで現状ではこれが一番ということになっています。特に剛性。リンク式を使ったことがある人はわかると思いますが、いかんせん出せない。そのためロングストロークには不向きです。故に今のMTBには向いていないと言えるでしょう。
変な話ですが、重量を比べてみましょうか。今は1500グラムほどのフロントフォークであれば十分軽量です。フレームは? リジッドであれば、あれほどの専有面積、いや容積かな? を持っていても、同じか、カーボンであれば1000グラムほどの製品もあります。これだけ部品を使う必要がある部分だと言うことが出来ます。
リジッドフォークとも比較してみましょう。アルミ製で780グラムくらい、カーボンリジッドストレートフォークで680グラム、クロモリディスクブレーキ用リジッドフォークだと1090グラムといった感じです。このなかで一番比較に適するのはアルミでしょう。サスフォークもアウターレッグ以外は基本アルミですから。
とするとその半分程が、スプリングとダンパーの部品に費やされていることが分かります。スプリングとダンパーの集合体であるリヤユニットはエアサスモデル(フォックス・フロートRP23なら妥当かな?)なら200グラムほどですから、フロントサスペンションに使われるショックアブソーバー機能に、いかに物量が投入されているか分かっていただけると思います。それはひとえにフロントフォークの重要性からです。
かなり乱暴な比較ですけどね(苦笑)。
ここまで重量増加してまで、何故ダンパーに物質を投下しなくてはいけないのでしょうか? それは熱だれを防ぐためです。
◎ローレシオのメリット
ユニットへの負担軽減、
これが最大だと思います。それは
熱だれの防止
とほぼイコールです。それがローレシオ化であり、リザーバータンクを装備する理由ということになります(エアサスペンションでもハードな使用が見込まれるロングストローク用には、既に装備されています)。タンクを付けることでダンパーオイルの量は増加し、熱を分散しやすくなります。そしてタンクに届くまでの細い経路(オイルホースなど)によって冷却されるのです。
熱があっても冷めやすいと、そもそも熱があまり溜まらないというのは大きな差です。それはダンパーフルードの酸化度合いを大きく左右するからです。酸化の進行具合が遅ければ、交換頻度も少なくなりますし、シール類にオイル切れ(ダンパーオイルとは別)も少なくなります。
フロントフォークはある意味極限のローレシオ、1対1比率のサスペンションの例として取り上げました。ここからは本来の意味のリヤサスにおけるローレシオについてです。
現在のリヤサスペンションは、3対1くらいの比率が標準です。すなわちリヤホイールが3センチ動く間に、リヤユニットは1センチ動くわけです。
ローレシオという言葉で忘れてはいけないサスペンションシステムがあります。メリダの『LRS』(ロー・レシオ・サスペンション)とフォーズの『2:1レシオ』とF1です。
http://www.rower.com/archiwum.php?art=1237
メリダのLRSはある意味不遇なサスペンションです。基本モデルでユニットストロークが63ミリ、トラベルが80ミリ(年式モデルによりバージョンは多数アリ)1.26対1という比率になります。これは抜けてレバー比が低いです。メーカーでもリヤサスの寿命が長いということをうたい文句にしていたはずです。非常に理に適ったサスペンションなのですが、どうも左右バランスの悪さを克服できませんでした。あと、作りがチープでした。他のメーカーがもっとこだわって作っていれば……、と残念に思いました。ユニット自体はDTスイス、マニトウ、ジャーマンA、Xフュージョンと結構選択肢があったんです。ローレシオが生きなかった例です。
http://www.foesracing.com/#/bikes
フォーズは言わずと知れたロングストロークリヤサスペンションのパイオニア。他のメーカーが見向きもしなかった時代から、シングルピボットでロングトラベルのバイクを作り続けて来ました。現在の最新システムが2:1レシオです。10インチに及ぶDHバイクにもこの理論を反映したので、専用ユニット・カーナッツの長さはとんでもないことになっています。そして重量も。システムの名前が語っているように2対1、ホイールが2センチ動くのにユニットのストロークは1センチという比率です。故にフォーズは他に類を見ない安定した走りができるのです。その代わり、他に問題があったりしますが……(苦笑)。ここではさておきましょう。
この場合、サスペンションとして優れていても、汎用性に欠けていますので下りにしか使えません。ですがそこはアメリカンカスタムフレームの雄・フォーズです。エア式のカーナッツを開発して、マラソンやオールマウンテンに適応させています。それでもフォーズは他社と比べると重いですけど……。でもレバー比は2対1です。同社のバイクが軽快というより安定という傾向が強いのも、このシステムを採用した根幹の考えがあればこそでしょう。
http://www.formula1.com/gallery/race/2010/829/
http://blog-imgs-11.fc2.com/h/o/n/hondaf1/IMG_1884.jpg
そしてF1。私はそれほど詳しくないので、聞きかじった程度です。モータースポーツの頂点に君臨するF1は機密が多い故に、数年前のスペックですらあまり大々的に公開されません。マニア達が写真から判定していることが多いようです。
フォーミュラカーはサスペンショントラベルが驚くほど短いようです。話しによると20ミリ程度だとか(最新モデルはポジティブストロークはなく、ネガティブ側だけあってホイールの浮きを無くしているという話しも散見しました。本当か?)。それを制御するショックアブソーバーのストロークはそれの2倍ほどあるらしいです。ですから1対2の割合ですね。ホイールの動きとユニットの動きの比率が逆転現象をおこしている、ローレシオの極みです。ユニットに負担を掛けないというのは、究めればここまでするということです。
ユニットの安定化はトラクション、グリップ改善、振動吸収性の改善、ブレーキング能力の改善、視点、姿勢の安定化などなど。良いことずくめです。さらに言えば、セッティングの細かな特性の付けやすさ。小さな入力でもきっちりとした減衰を掛けることが出来ること。
結局サスペンションユニットとは
熱変換装置
なわけです。
動的エネルギーを、オイルを代表とする液体をオリフィスに通すことや、インナーチューブとアウターチューブの擦れ合いなどで熱エネルギーへと替えることが目的です。これを行うことで、乗り手がスタンディングや腕の動き、脚の動き、体重移動で納めていたエネルギーを、人に変わって処理してくれるのです。
乗り手の運動量が減る
ということですね。これがローレシオ化のメリットです(桶屋状態の長い理屈ですが)。
でも一方で人の入力するエネルギーも熱に変換してしまうこともありますから、そこのさじ加減は難しいところです。これを解消するためにプロペダルやSPV、CVT、Mバルブ、MCダンパーなどの機能が存在するのです。加えてリヤエンドの軌跡を調整するサス設計と合わさることで、衝撃は吸収するけどペダリングロスやボビングは少ないという、ヤケに都合の良い最新型MTBサスペンションが成り立っているのです。
昔のユニットが弱かったのは、シールの概念がMTBに最適化していなかったのと、自転車であるが故に軽くしなければ成らないという枷に捕らわれてしまっていて、オイルの量が少なく、ダンパーが貧弱だったからです。ローレシオ化とユニットの長寿命化はイコールではありませんが、副産物ということが出来るでしょう。
これが解消されるには5thエレメントの登場を待たなくてはいけません。現在、フォックス・DHXシリーズは当時の5thを完全に凌駕していますが、当時は抜かれるところまで行ってしまいました。それはCVT(コントロール・バルブ・テクノロジー)に依る物ではなく、他の畑から参入したサスペンションメーカーとしての当たり前な、大型化による熱だれの防止にあったと私は考えています。
日本独自としては、サイクルワールドが展開していたVSRシリーズのモーターサイクル用をデチューンしたカヤバユニット。ブリヂストンが国内、いや世界のサスペンションメーカー・ショーワに作製を依頼したユニット。もう一つが今は無きテックインが開発したデストロンユニットの発展版、Mバルブ搭載モデルというのがありました。近年に目を移せば、ホンダレーシングチームが使用したショーワ、カヤバも大容量ユニットの代表格です。いずれも最高級の性能をもっていたんですよ?
海外でもオーリンズをデチューンしたモデル(今のケーンクリークモデルとは異なる)や、ガススプリングを使用したビルシュタインもありました。
いづれも残念ながら血脈を繋ぐことは出来ませんでしたが……。
http://www.foxracingshox.com/bike/11/shocks/DHX
フォックスがMTB最高性能という地位を奪還するには、DHXの登場を待たなければいけませんでした。これの登場で重量は増しましたが、一気に性能を上げてきました。プロペダルも大切な性能ですが、私は基本性能の底上げこそがDHXの真髄だと思っています。今でも見渡せばボス、ケーンクリーク、アバランチェショック、カーナッツなど超高級ユニットは存在しますが、価格と性能のバランスを実現しているのはフォックスだけです。
同社が最高峰に位置する理由は簡単です。常にアップデートしてくるからです。まさに
KAIZEN
です。同じモデルでも同じ名前でも中身が違うことはザラなんです。クルマ界の言葉ですが、最新のモデルこそ最良のポルシェ、ということに尽きますね。
◎ローレシオのデメリット
重さとスペースかな? これだけです(苦笑)。
MTBはサスペンション黎明期から軽さを求められてきました。なのでエアスプリング式が主流でした。フォーズでさえ、初期モデルはフォックス・アルプスのカスタムでしたから(とんでもなく長かったですねえ)。コイルスプリングに変更する英断を下したのは……、どこのメーカーでしたか? 忘れてしまいました(笑)。当時はMTBといえどロードバイクの延長線上で考えられてきましたから、重量が増えるということは害悪でしかなかったんです。
いまでこそ複雑な形状がハイドロフォーミングで作れますが、今のような何処にでもユニットを配置できる時代ではなかったのです。そんなことをすれば、バイクとしての強度を保つことが出来ませんでした。今の人が思っているよりスペースって重要だったんですよ。
今のバイクは、機能を求めて重量が重くなった、その次の段階で機能を維持しつつ重量を軽くするという段階です。その為にサスペンションメーカー各社が下り用エアサスの開発に躍起になっているのです。勿論性能はコイルスプリングに近いままにして。
Nさん、こんな感じでいかがです?
追記
レバーとは梃子のことだということを前置きます。
マルチリンクの場合はシングルピボットリンク無しの単純梃子ではなく、複合梃子ですね。リヤエンド部分からユニットへの入力の間にピボットが1つ以上あればそれは複合と言っていいと思います。
おそらく各ストローク域での入力の変化をおっしゃりたいのだと思いますが、それは今回完全に無視しています。文中のレバー比とは、基本的にユニットストロークとホイールトラベルの割合を語っていることは分かっていただけると思います。
ここのローレシオとはサスペンションの特性を指しているのではありません。それが必要なのはレバー比ではなく、レバー特性であり、その特性に合わせたユニットの特性設定、すなわちバルブ特性との複合産物だと私は考えています。それは○対○というような比率で表せるものではありません。
ここで触れたローレシオとは、あくまでホイールの動き量とユニットの動き量の比較(レシオ)です。
ではレバー比を把握するのに、そんなにおおざっぱで良いのか? と言われると「いいんじゃない?」というのが私の今の持論です(笑)。
フォックス・DHX4.0のユニット寸法は
7.5-2.0
7.875-2.0
7.875.-2.25
8.5-2.5
8.75-2.75
9.5-3.0
ですね。とすると、ユニット側の最大ストロークは3インチ、すなわち76ミリほどになります。それを3倍すれば、あらかたのバイクのトラベルをカバーすることが出来ます。これが通常モデルのレバー比を3対1と言った根拠です。そこを理想の比率にするのに、2.8インチとか29.3インチにするということはほぼないわけです(特注でロングユニットを作ることも勿論可能ですが)。
そもそもトラベルがある程度各社共通で、まとめられるというのはおかしいと思いませんか? DHバイクで言えば、7、8、10インチという位の数値に各社統一する必要は無いはずです。想定されるフロントフォークがいくつかあり、それらのフレーム側の推奨トラベルというのはありますが、各社が本当に理想を追求しているなら、もっと自由な数値が出てきて良いはずです。
それが出てこないのは……、
まあ、設計者もトラベルとユニットは既製というか、世の常識の範囲で決めている面が強いのかと。それで不満があるならそこで初めてなんらかの特注モデルを発注するのだと思いますよ。いい加減に見えるかもしれませんが、フレームメーカーも広い意味ではアッセンブラーという範疇にいるわけで。そしたらその範囲内でなんとかしなければいけないわけで。
ローレシオとは、その為の
概念把握用語
だと私は考えています。
これは蛇足です。
熱量を解消するのに、ユニットのストロークを短いままに、オイルの量だけ増やして冷却化を図るという考え方も方法論としてはありです。この方法論だと私の書き記したことはデタラメとなります(苦笑)。
ですがその場合、エネルギーを変換する前にオリフィスやバルブに多大なる負担を負わせることになります。結果としてオイルやシールとは違ったところで寿命が短く成ってしまいます。この状況になると熱変換以前の問題になってしまいます。そうなっては意味がないのは……分かっていただけると思います。それはやはり無駄というものでしょう。
さて、いかがでしょうか?
それにしても・・・bikebindさんの知識には・・・脱帽です。
こっちでは文字数に制限があるので、追記という形で書いておきました。
またなにか感想がありましたら、お願いします。
このような知識は走る上では役に立ちませんし(笑)。
でもこういうのは好きなんです。好きな物を考えるのは、より楽しいですね。