堀辰雄の全集

2013-07-29 | 日記

        

昭和55年 ( 1980 ) 筑摩書房発行 『 堀辰雄全集 第七巻 (下) 』 ( 全八巻・別巻二冊 全11冊 )。装丁は岡鹿之助 ( 1898-1978 )。

これも発行当時から発売される度に買い揃えていた全集である。全巻完結するのに三年かかった。また、80年代当時の¥5,200というのは、やはりいい値段だった。今でこそ古書店では全集本が安くなっているが、この筑摩版の決定版全集でさえ今は、安いところでは、本の状態は不問にしても全11冊揃い¥20,000 前後で買えるのである。配本が終わった時点ではこの堀辰雄全集は、神田の古書街でも結構な値段が付いていたように思う、人気の全集だった。僕はやはり積読 ( つんどく ) であったが、並べて見ると部屋が堀辰雄 ( 1904-1953 ) に満たされて (?) 、落ち着きがあって、いいインテリアになった。同じ小説でも文庫本で読むのとはまた違った、「 文学 」 という雰囲気で読めるのである。

この箱付ハードカバーの全集を開くのは何年ぶりだろうか、しかしとても新鮮な気持ちになったり、ただ意味もなく漠然と 「 文学 」 の香りを嗅ぐのである。普段読まなくても、ただ側にあると、いつか本が、開 ( ひら ) けと誘惑するから、それは僕の大切な喜びの一つである。本と共にある時間を嬉しいと思える僕は、何よりもまず幸福である、と言わなければならない。そしてそうした環境にある僕は、経済的貧しさを超えてそうした運命に感謝する。ありがたいと思う。 「 日記 」 1929年8月8日の項の一部。

Proust ガ冗漫デ細密ナノハ、彼ガ彼以前ノ誰ヨリモ事物ニ近ヅイタ単ナル理由ニヨル。彼ハ我々ト事物トノ間ノ新シイ距離ノ発明者デアル