透明グラスと 『 宝石の眠り 』

2013-07-25 | 日記

西脇順三郎最後の詩集 『 宝石の眠り 』 は昭和54年11月に花曜社から出版された。この時、詩人は85歳だった。装丁は詩人の吉岡実 ( 1919-1990 ) 。吉岡は装丁家としても有名であった。カクテルグラスを写したから、せっかくなのでこの詩集の中に 「 バーの瞑想 」 という詩があるので、それを紹介する。( 『 宝石の眠り 』 は昭和38年筑摩書房版 『 西脇順三郎全詩集 』 に収録したものを底本としている。単行本としては初めての詩集である。)

            野原を

            灰色に 

            かすつた

            指に

            ただよつてくる

            崖

            猫の死体

            樵夫の裸

            急に

            消された

            ヴェニュスに

            くらやむひとみに

            ただひとり歩く

            この野原の音

            永遠は

            菊の

            香いが

            す

            る

「 香い 」 とは匂いのことか。透明なグラスに赤い液体を注げば、「 赤いグラス 」 である。おいしいミルクを注げば、 「 白いグラス 」 になる。キコリ ( キリコ? ) の裸は名工のブロンズか。急に居なくなったヴェニュス ( ヴィーナス ) とは、急に化粧室に行ったバーのマダムかマドンナか。流す音がする。瞑想は単なる妄想であっても面白い。女の香りは、永遠なる菊花の匂いである。