アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

現代のブラームス、ここにあり!

2018-03-10 22:00:00 | 音楽/芸術

昨年に引き続き、すみだ平和祈念コンサートが開催され、おなじみのトリフォニーまで行ってきた。

ちょうどこの時期だと、我々には3月11日の東日本大震災を想い浮かべてしまうが、実際には1945年3月10日の東京大空襲を指している。ここ墨田の地も何万人とも言われる犠牲者、そして焼け野原と化したという。どちらの現実も風化させず、後世に語り継がれていかなければならない出来事だろう。今回のようなコンサートは、日頃忘れがちの平和を祈るための良い機会になると思うし、可能な限り継続していければ素晴らしい事だ。

さてその演奏会。今回のメインプロは、ブラームスの第1交響曲が置かれていた。4つある交響曲の中では、最もメジャーで人気もあり、比較的演奏会で取り上げられる機会が多い楽曲。アントンKも、過去の実演体験もそこそこ多い。最近では都響=フルシャや東京響=ノットなど聴いている。自分にとっても、やはり一番入りやすく、いつもブラームスの暗く湿った雰囲気の楽曲の中では聴きやすいし、最後に向かって勝利する曲想は大好きなのだ。良い意味で、平和祈念コンサートのメインプロには相応しいし明日への活力と希望へつながる楽曲だろう。

結論から言って、今回のブラームス、指揮者上岡敏之の現在の集大成といってもいいくらいの内容だった。アントンKの聴き方は、これだけメジャーで名曲であるブラ1を我々にどう聴かせるかということにポイントを置いているが、過去のブラ1の録音や実演のどれとも違う、誰とも似ていない全く新しいブラ1だったと断言する。

第1楽章の序奏部から、エネルギー全開!ティンパニの刻む重く意味のあるリズムにリードされ、オケ全体が鳴り響くが、このリズム(8分音符の刻み)が、弦楽器に受け継がれるのだが、それがピッチカートにも、そしてベースの刻みにも意識され、強調されていたのにまずは驚嘆。特に25小節からのベースの刻みの強調は恐ろしいほどだった。上岡氏の全身全霊での指揮振りにこの時点で圧倒されたのだ。主部に入りテンポがアレグロに変わると、快速になるのだが、主題の横の繋がりが鮮明で、また各声部に散りばめられたテーマのモチーフの強調も散見され、随所に聴いたことのない新しい発見があった。第2楽章については、アントンKが今回楽しみにしていた楽曲の一つ。コンマスの崔氏のソロが聴けるからだ。ブラームスの楽曲では、特に木管楽器の充実振りで決まってしまうと思っているが、この日も各パートは絶好調のようで、出のファゴットやObの心のこもった音色には感動する。最後に現れるVnのソロも、期待にたがわず温かく美しい。崔氏のHrnとの掛け合いも、お互いが聴き合い、その優しい音色にアントンKも降参して涙してしまうが、今までこんなポイントで生まれてこなかった感情が沸き上がり新たな気持ちになった。第3楽章についても木管の充実など同じことが言えるが、それも次の第4楽章で決定的になる。序奏部での弦楽器のピッチカートのスリリングさ。上岡氏の指示なのだが、ここでは一寸の狂いもなく時に恐怖まで感じてしまうのだ。そして30小節目から始まるHrnは、絶妙な弦楽器群のさざ波に乗り、目の前に雪をかぶったアルプス連峰が現れるがごとく、雄弁で格調が高かったのだ。そしてそのあとのTrbのコラールは、遠くから鳴り響き、まるで教会のオルガンのよう。どこか平和で安堵な雰囲気にさせられる。このあたりの上岡氏の解釈、響かせ方はかつてこの楽曲では聴いたことがなく新鮮で美しかった。そして続く主部に入ると、これまた絶妙な内容にびっくり!メロディに合わせて音楽に力点を付け、「出す引く」という音楽の流れを形成し、これもアントンKには度肝を抜かれたポイントだった。上げれば切りが無くなってくるが、やはりコーダへの下りは書き留めなくてはいけない。ちょうど390小節以降のC-durになるところからの解釈がベストで、大見得を切らずストレートな表現の中に、エネルギーの集中と熱さがあり、例のコラール主題に突入する部分。それまでのテンポが一転、たっぷりとしたものに代わり、弦楽器を中心としたふくよかなトーンで演奏。このffで奏される管と弦による響きの世界は、かつてアントンKは聴いたことがなく、これぞブラームスの真実か、と思わせるものだった。このコラールの部分、ほんの10小節にあたるが、最後のファーレーの響きも、最初が強く、次が弱くという手法で、実に綺麗に響きを収めていた印象。続く終結部までの下りは、インテンポに戻り、逆にオケを煽りだした指揮者上岡は、まるで阿修羅のごとく燃えたぎっていた。

今まで聴いてきた上岡氏の演奏は、どれもオケを極端に絶叫させず、常にバランスを考慮し、今まで聴き取れなかった小さなメロディやあるいはモチーフまで浮かび上がらせ、聴衆を虜にしてきた。楽曲によっては、それがマイナスに感じることもあるだろう。しかし長年この分野を聴いてきたファンとしては、上岡氏の演奏は、新しい発見に満ち、新鮮な風が吹いていると言っていい。

今回のブラ1は、長年名盤とされていたミュンシュ盤をはじめ、アントンKも実演も含めてレコード・CDは聴いてきた。名曲中の名曲だから、古くはフルトヴェングラーやトスカニーニから始まるが、経験上そのどの演奏とも、今回は類似せず、あれほど聴いてきた楽曲が驚くことに新鮮に感じてしまった。過去の巨匠たちをも否定しかねない演奏解釈をオケのメンバーに要求し、こんなに素晴らしい演奏が実現した訳で、その上岡氏の音楽に対する姿勢にアントンKは感服する。

実は本番前日に、アントンKはリハーサルに立ち会うことができた。そこでのやり取りから、上岡氏の欲する音楽が手に取るようにわかり、目の前には、どんな要求にでも食いついて音楽にするオーケストラがいた。細かく要点を積み上げていき、より理想とする音楽に双方が近づこうとする様が理解できた。それは、きれいごとだけでは済まない世界だろうが、こうして生まれた音楽に、我々聴衆が生きる勇気を享受することも事実なのだ。そして音楽に完成形はない、ということも改めて思い直した。

すみだ平和祈念コンサート2018

ドヴォルザーク  ヴァイオリン協奏曲 イ短調 OP53

ブラームス    交響曲第1番 ハ短調 OP68

アンコール

ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 より第3楽章

新日本フィルハーモニー交響楽団

指揮    上岡敏之

Vn          大江 馨

コンマス  崔 文洙

2018年3月10日 すみだトリフォニー大ホール

 

 



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