風雅遁走!(ふうがとんそう)

引っ越し版!フーガは遁走曲と訳される。いったい何処へ逃げると言うのか? また、風雅は詩歌の道のことであるという。

黄昏オン・ザ・ロード(6)/最終章・ATOM HEART MOTHER

2005-12-02 00:30:53 | 東京暮色/秋~初冬
run_tombprotecter_2陽が高く昇ってから起きだした。なんということだ、本堂横の座敷に泊まらせてもらいながら、仏の道を極めようと言う心がけもないだらしないボクらである。そんなグダグダしているだけのボクらになんと住職の奥さまは朝食まで用意してくれる。
サンマの開きと練り物の住職の田舎のおみやげである。最後に起きだしてきたナカノと顔を見合わす。そんなにまだ顔を合わせた訳でもないのに、ボクたちはもう3回もサンマを一緒に食べている。「もうボクらは切っても切れないサンマの友だね」と、ナカノももうボクが言わんとすることが以心伝心で伝わって目をウルウルさせている。ちなみにサンマの友は、むかしはチクバの友とか言ってたらしいが、竹馬なんて誰が乗るかい、いまどき!

最後に寺の裏手の樹木葬地を詣る。母のヒメコブシの木のそばで佇んでいると、墓守り猫のランが向こうから近付いてくる。樹木葬地はランの格好の遊び場であり、日向ぼっこの場所だ。
ランは人見知りをしない猫で、誰にでも親しげについていく。ランのどこか他者にまかせたような、気楽な生き方は放浪の果てに寺に行き着いた隠者のようでもあり、好ましい。ランのように生きたいと、一応ヒトのかたちをしているボクなどは思ってしまう。
ランに母さんをよろしくね!
と頼んで、住職に別れを告げに行く。

帰路、運転を全面的に流れ星のホッシーに頼んだ。ボクは助手席に座ってカーナビを読むのと、DJをかってでた。
ナビがどうにかアクアラインに導こうとするのを、無視しかわし京葉道路へ入る。そこでボクは用意してあったPINK FLOYDの「ATOM HEART MOTHER」を最大ボリュームでかけた。
プログレ最高のサイケデリック・ロック交響曲だ。後部座席に座っているナベちゃんもはまっているPINK FLOYD。幕張にさしかかるころ、曲は丁度男女混声のコーラス・パートになって佳境に入る。

「原子心母」は、流れていく車窓の未来的な、いや核戦争後の廃墟化したハイウェイのような風景とぴったりシンクロしていくようだ。運転するホッシーが言う。

「まるで、このまま終末になだれ込んでいくみたいですね」

そうだ! 流れ星のホッシー! いいことを言うぞ! まだ陽は高いが、これで海に落ちていく夕陽にでも照らされていたら、ボクはこのまま海に突っ込んで行きたくなるかも知れない。黄昏のなかで紅く染まった核戦争後の京葉道路は、きっと壮絶に崩壊していくに違いない。阪神大震災のあと、神戸で横倒しになった高速道路の終末イメージがボクのドタマの中をかけめぐる!
まるでこの国が巨大な端島(軍艦島)の廃墟と化したかのように思えてきた。このまま東京に入ると、そこは鉄とコンクリートで埋まった巨大な産業廃棄物の捨て場所となっているかも知れないと!

ドタマの中の妄想はどんどんとイメージを脹らまして、東京というメガ規模のバビロン・シティが911のWTC(世界貿易センタービル)のように、崩壊して行くさまが感じられて怖くなってしまう。もしくは大友克洋の名作『AKIRA』のヴィジョンのような妄想だ。

そして、「原子心母」に聞き入りながら、車窓の風景に妄想をたかめていたボクは、そこに一縷(いちる)の希望があることに気付いたのだ。

そうだ。PINK FLOYDの「ATOM HEART MOTHER」のこの曲のタイトルに救いがあった。そこにも母はにこやかに微笑んでいた! 原子の極小の形をして、それでいて宇宙大の大きさをした母が、そこにはあった。
母のこころが、そこには表現されてあった。ATOM HEART MOTHER!

母よ! マザー! ボクは父の血を引き継いだ単なる妄想家にすぎないのですか?
(2005.11.26~12.01)

(写真4)母のヒメコブシに近づくラン。ランはあたかも放浪の果てに辿り着いたこの地で余生を過ごす隠者のようである。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
JUNさんの日記、いつも楽しみに読んでます。 (megumuko)
2005-12-02 07:34:56
JUNさんの日記、いつも楽しみに読んでます。
見せ物小屋もすごいし、「柿の実」の見方には本当に感動しました。

「ヒメコブシとラン」の写真いいですね。
ところで、ヒメコブシはコブシよりさらに小さくてたくさんの花をつける木ですか?
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おとこのひとにとって、母はやはり胎内回帰願望の... (jun)
2005-12-02 17:40:37
おとこのひとにとって、母はやはり胎内回帰願望の象徴的存在なんですね。
「アキラ」の荒廃した首都東京の、原風景と重なるあたりの流れが、なかなかのイメージ絵画になっていますね。かっこいいぜ、JUNさん。
ピンクフロイドの大音量は、右翼にも負けない!
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megumukoさん! 初のコメントをありがとう! (フーゲツのJUN)
2005-12-03 12:52:38
megumukoさん! 初のコメントをありがとう!
いや、読んでもらうのはもちろんうれしいですが、コメントをいただくともっとうれしいものなのです。
まして感動していただけるなんてなんてうれしいのでしょう。メールアドレスを明らかにしていただければ、連絡の取り様もあり、もっとうれしいのですが(笑)。

ヒメコブシは一般のコブシより花がやや小振りなようです。まだ、幼い木なのでどのくらい花をつけてくれるのかわかりませんが、春に梅に次いで早春を告げる花木です。来春、花が咲いたらまた報告させていただきます。
本当にありがとう。また書いて下さいね。
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同じ名前のjunさん! (フーゲツのJUN)
2005-12-03 13:02:52
同じ名前のjunさん!

>「AKIRA」の荒廃した首都東京の、原風景と重なるあたりの流れが、なかなかのイメージ絵画になっていますね。かっこいいぜ、JUNさん!

ドヒャ! うれしか! いや、イメージが先行して書いた文章と言うものは、えてしてひとりよがりになりがちなので、イメージが伝わっただけでもうれしいものです。

すると京葉道路でピンク・フロイドの「原子心母」をならしまくって疾走するボクたちは、さながら核戦争後の暴走族?
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