ボクは、思わず車椅子を押す看護士さんに聞いた。
「その方ですね。ケーオーボーイの方は?」
「よく御存知ですね。わたしたちはそう呼び合ってますのよ」
「いやたまたま病室まで、話し声が聞こえてきたものですから……。あの時話してらした看護士さんの方ですか?」
「いえ、違うと思いますけど。わたしもこの方がケーオーボーイだと言うことを同僚から聞いたばかりで……」
話しながらも、看護士は車椅子に座ったままの老人のパジャマを脱がせてゆく。手慣れたものだ。老人は車椅子の上で、素っ裸にされてしまっている。痩せこけて青白い裸だった。
「じゃ、失礼します」
そう言い残して、ボクは浴室から出てきたのだった。
残念だった。いや、ボクは「ケーオーボーイですか? カッコイイ!」と言った看護士さんに会いたかったのだ。そのような価値観をいまだもっている若い看護士さんが、今もいるのだとしたらそのお顔を拝顔したかった。
ボクは、「ケーオーボーイですか? カッコイイ!」という言葉に打ちのめされてしまった。それも、そのようなセリフを85歳以上の老人に向けて放つその感覚に、ノックアウトされてしまったのだ。
その夜、待ち合いの共有スペースで、完敗しつつある日本女子バレーボールチームを応援するボクの耳には、その声援にも負けじと叫ぶケーオーボーイの老人の「ア~~、ア~~!」という声が確実に届いたのだった。
(おわり)
(写真)病院の裏手の八国山の沼地には、このような警告板もある。マムシがいるのだ(八国山にはタヌキもいます)。
「その方ですね。ケーオーボーイの方は?」
「よく御存知ですね。わたしたちはそう呼び合ってますのよ」
「いやたまたま病室まで、話し声が聞こえてきたものですから……。あの時話してらした看護士さんの方ですか?」
「いえ、違うと思いますけど。わたしもこの方がケーオーボーイだと言うことを同僚から聞いたばかりで……」
話しながらも、看護士は車椅子に座ったままの老人のパジャマを脱がせてゆく。手慣れたものだ。老人は車椅子の上で、素っ裸にされてしまっている。痩せこけて青白い裸だった。
「じゃ、失礼します」
そう言い残して、ボクは浴室から出てきたのだった。
残念だった。いや、ボクは「ケーオーボーイですか? カッコイイ!」と言った看護士さんに会いたかったのだ。そのような価値観をいまだもっている若い看護士さんが、今もいるのだとしたらそのお顔を拝顔したかった。
ボクは、「ケーオーボーイですか? カッコイイ!」という言葉に打ちのめされてしまった。それも、そのようなセリフを85歳以上の老人に向けて放つその感覚に、ノックアウトされてしまったのだ。
その夜、待ち合いの共有スペースで、完敗しつつある日本女子バレーボールチームを応援するボクの耳には、その声援にも負けじと叫ぶケーオーボーイの老人の「ア~~、ア~~!」という声が確実に届いたのだった。
(おわり)
(写真)病院の裏手の八国山の沼地には、このような警告板もある。マムシがいるのだ(八国山にはタヌキもいます)。