『祖母さまのお手々はだるまのお手々』(漫画)
大石智教 大石哲史 大石晶教(雅美) 監修 濱田麻衣子 作画
大石順教尼かなりや会 2012年
図書館の郷土資料を集めたコーナーを眺めていたところ、「マンガ」という表紙が目に飛び込んだ。丁度、軽めのコミックが読みたいと思っていたところだったので、何も考えずに本書を手にした。表紙は尼さんと少女が描かれ背景は淡いピンクに桜が散りばめられており、それだけでほんわかした和の京都を醸し出す。おそらく、京都のわらべ歌をモチーフとした内容なんだろうと理解し借りて自宅にてページを開いた。そして、のけぞることになった。
「はじめに」の冒頭に次のように書かれてあった。
「今から約百七年前、大阪で起きた凄惨な事件『堀江の六人斬り』の被害者となり、わずか十七歳という若さで両腕を養父に切り落とされるという壮絶な体験を経て苦難の道を歩んだ後、仏道に入り、身障者のための福祉活動に障害を捧げた大石順教は、姉と私たちきょうだいにとっての祖母でもありました。」
私は本書を読むまで大石順教という名も知らないばかりか、「堀江の六人斬り」という事件も知らなかった。養父が子どもの両腕を切り落とすというのはどういうことなのか、いや、「六人斬り」とあるからには、斬られたのは彼女だけではない。ましてや、「はじめに」を読み進めると彼女は後に障害者福祉に力を注いでいる。まかりなりにも、教育と福祉の世界を行ったり来たりしている私が彼女の名前を知っていなかったとはそれだけでも十分に恥ずかしいことである。図書館で本書に出会った時の軽い気持ちはふっとび、まさに襟を正して読むこととなった。
本書は「はじめに」に書かれてあるように大石順教の伝記を漫画化したものであったのである。マンガの語り手は彼女の孫であり、順教の心を継ぐため得度した大石晶教さんが行っており、第一章では、順教が踊りの才能をかわれ、養父のもとで生活するようになったところから、「堀江の六人斬り」の事件、そして、養父の死刑執行までのエピソードが語られている。第二章では、結婚から仏道に入るまでが、そして第三章では得度してから鬼籍に入るまでが描かれている。その後に、順教の交遊録と年譜と続く。しかし、マンガとしてはかなり薄いものであり、正味106ページである。しかし、その中は濃厚で「事件」だけをワイドショー的に取り上げているものではない。順教をはじめ、加害者となった養父やその周囲に人々の感情を丁寧に描いており、悲惨出来事でありながら、かなり冷静に読むことができる。どこを切り取っても人々の心のうちをそこから見つめることができるのである。そして、当時の社会状況の中、障害者福祉に尽力したその立ち振る舞いは学ぶところが多く、本書の軸となる部分と思われる。そこから、より順教のことを知りたいという思いに駆られる。
「ごあいさつ」では、
「尼僧の心の足跡を末永く伝承するため、この仏縁深い孫達が奇しくも順教尼の障害をマンガ化するという構想を描いていたことが端緒となり、今回の出版の運びになりました」
とある。まさに、本書はそのねらい通りと言えよう。私のように順教のことを知らなかった人、そして福祉に関心のある人、まずは一読して、そこから枝葉が伸びることを期待させてくれる1冊である。
大石智教 大石哲史 大石晶教(雅美) 監修 濱田麻衣子 作画
大石順教尼かなりや会 2012年
図書館の郷土資料を集めたコーナーを眺めていたところ、「マンガ」という表紙が目に飛び込んだ。丁度、軽めのコミックが読みたいと思っていたところだったので、何も考えずに本書を手にした。表紙は尼さんと少女が描かれ背景は淡いピンクに桜が散りばめられており、それだけでほんわかした和の京都を醸し出す。おそらく、京都のわらべ歌をモチーフとした内容なんだろうと理解し借りて自宅にてページを開いた。そして、のけぞることになった。
「はじめに」の冒頭に次のように書かれてあった。
「今から約百七年前、大阪で起きた凄惨な事件『堀江の六人斬り』の被害者となり、わずか十七歳という若さで両腕を養父に切り落とされるという壮絶な体験を経て苦難の道を歩んだ後、仏道に入り、身障者のための福祉活動に障害を捧げた大石順教は、姉と私たちきょうだいにとっての祖母でもありました。」
私は本書を読むまで大石順教という名も知らないばかりか、「堀江の六人斬り」という事件も知らなかった。養父が子どもの両腕を切り落とすというのはどういうことなのか、いや、「六人斬り」とあるからには、斬られたのは彼女だけではない。ましてや、「はじめに」を読み進めると彼女は後に障害者福祉に力を注いでいる。まかりなりにも、教育と福祉の世界を行ったり来たりしている私が彼女の名前を知っていなかったとはそれだけでも十分に恥ずかしいことである。図書館で本書に出会った時の軽い気持ちはふっとび、まさに襟を正して読むこととなった。
本書は「はじめに」に書かれてあるように大石順教の伝記を漫画化したものであったのである。マンガの語り手は彼女の孫であり、順教の心を継ぐため得度した大石晶教さんが行っており、第一章では、順教が踊りの才能をかわれ、養父のもとで生活するようになったところから、「堀江の六人斬り」の事件、そして、養父の死刑執行までのエピソードが語られている。第二章では、結婚から仏道に入るまでが、そして第三章では得度してから鬼籍に入るまでが描かれている。その後に、順教の交遊録と年譜と続く。しかし、マンガとしてはかなり薄いものであり、正味106ページである。しかし、その中は濃厚で「事件」だけをワイドショー的に取り上げているものではない。順教をはじめ、加害者となった養父やその周囲に人々の感情を丁寧に描いており、悲惨出来事でありながら、かなり冷静に読むことができる。どこを切り取っても人々の心のうちをそこから見つめることができるのである。そして、当時の社会状況の中、障害者福祉に尽力したその立ち振る舞いは学ぶところが多く、本書の軸となる部分と思われる。そこから、より順教のことを知りたいという思いに駆られる。
「ごあいさつ」では、
「尼僧の心の足跡を末永く伝承するため、この仏縁深い孫達が奇しくも順教尼の障害をマンガ化するという構想を描いていたことが端緒となり、今回の出版の運びになりました」
とある。まさに、本書はそのねらい通りと言えよう。私のように順教のことを知らなかった人、そして福祉に関心のある人、まずは一読して、そこから枝葉が伸びることを期待させてくれる1冊である。