まったく荒れ模様の天気で、春は遠いと本日も感じています。そこで本日は穏やかにエキサイトするこれを――
■In A Silent Way / Miles Davis (Sony)
ジャズ・ロックといえば、必ず引き合いにだされるのが、このアルバムですが、私はこれはロック・ジャズじゃないかと思っています。
「ジャズ・ロック」と「ロック・ジャズ」は「カレーライス」と「ライスカレー」の違いくらいと思うのが普通ですが、私はこのアルバムがある限り、拘ります。それはこの作品が明らかにロック色が強いからで、しかもそれをジャズの帝王であるマイルスが演じてしまったところに、ロック・ジャズの真髄があるのです。
収められた曲はLP両面で4曲ですが、実は片面づつのメドレー形式というか、編集によって繋ぎ合わされた作り物です。こういう事は即興演奏が命のジャズでは敬遠されてしかるべきというのが王道ですが、マイルスだったら何をやってもいいのか? という憤りが、このアルバムの価値を決定づけています。
つまり1960年代後半、ロックに押しまくられたジャズの逆襲は、ここから始まったとして過言でないものが、びっしり詰まった演奏です。
録音は1969年2月18日、メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ウェイン・ショーター(ss)、ハービー・ハンコック(elp)、チック・コリア(elp)、ジョー・ザビヌル(elp,org)、ジョン・マクラフリン(g)、デイブ・ホランド(elb)、トニー・ウィリアムス(ds) という黄金の8人! もちろん臨時編成ではありますが、度々、マイルスと共演を重ねてきた気心の知れた者たちです。
ただしデイブ・ホランドとジョン・マクラフリンは、このセッション直前にマイルスが欧州巡業を行った際に英国からスカウトしてきた若手実力派で、しかし実際はトニー・ウィリアムスが自分のバンドを組むために声を掛けたという説もあります。
いずれにせよ、2人は当時の新感覚派というか、ロック先進国だったイギリス出身ということで、新しい血の導入がなされたわけです。ちなみにジョー・ザビヌルも欧州人で、マイルスのセッションに参加する以前はキャノンボール・アダレイ(as) のハンドのレギュラーとして、大ヒット曲「マーシー・マーシー・マーシー」等のファンキーな名曲を多数書いていた逸材でした。
で、その彼等が大活躍したのがこのアルバムです――
A-1 Shhh / Peaceful
ジョー・ザビヌルのオルガンとジョン・マクラフリンのギターを土台としてトニー・ウィリアムスの定型ビートがビシバシ炸裂する幻想的な出だしから、徐々に潜在的なロックビートが現れたとこで、マイルスのハスキーでクールなトランペットが登場するという、いきなり、もうたまらん状態の曲です。
エレピとギターの絡み、密かに蠢くエレキベースも無駄が無く、独特のニュアンスが従来のジャズを超越しています。マイルスもこういう単純にしてカラフルなビートに乗ってアドリブするのは得意で、例えば1954年の「Bags Groove」とか1959年の「So What」あたりと共通する快感があります。
さて気になるジョン・マクラフリンは5分57秒目あたりから主役となり、ここは明らかにテープ編集の痕跡が聞き取れますが、本当にジャズでもロックでもない演奏を先導するフレーズの妙は流石です。またそれをジャズ側に引き戻すのがウェイン・ショーターという演出に繋がるわけです。そして10分45秒目あたりで再びテープ編集があり、マクラフリンが再度躍り出てキーボード群と激しく対峙した後、巧みなテープ編集が幾度か重ねられて御大マイルスが締め括るにかかるのですが……。
という展開がどうゆう結末になるかは聴いてのお楽しみです。なんだ! これはテープ編集じゃないのか!? ジャズにこれが許されるのか!? という怒りは当然ではありますが……。まあ、そのあたりがロック・ジャズと私が決めつけるところでもあるのです。
B-1 In A Silent Way / It's About That Time
これもジョン・マクラフリンが主役を張って導入部を演出していきます。それは穏やかな草原の風景にも似ておりますが、ショーターのソプラノサックスや複数のキーボード群、デイブ・ホランドの弓弾きベースが最高のスパイスで、そこにマイルスがフワッと入ってくる瞬間の厳かな雰囲気は、何度聞いても飽きません。
そして一転、4分10秒目あたりからは大ファンク大会♪ キメまくりのベースとドラムス、鋭いツッコミのギターとキーボードが、巧みなテープ編集と相まって効果的です。それは隙間だらけの擬似空間でもあり、そこへ何時、誰が入り込んでくるのか? というスリルとサスペンスがいっぱいという仕掛けです。
こういう緊張が続いた後、10分27秒目からは必殺のリフが現れて思わずノリノリ♪ うっ、これはサンタナじゃないのか!? 確かに1970年代のサンタナが頻繁に使っていたリズムパターンです。ちなみにサンタナがデビューしたのが、このアルバムが発売されたのと同じ1969年でしたから、なんの因果か?
で、11分50秒目あたりからは、お待ちかねのマイルスが本格参戦して、クールに熱いフレーズを聴かせ、さらに13分10秒目からは、それまで大人しくしていたトニー・ウィリアムスが激しく心情吐露! ここは本当に大興奮ですよ♪
しかし大団円は、なんとテープの切り貼りと思われる処理で、最初の静寂の部分にリターンするのです。ジャズ的な観点からすれば完全に???なんですが、これがなかなか気持ち良いという……♪ はははっ、どうだっ、ジャズはこれから、こうやって生きていくんだっ! というような開き直りが、ここでは素敵だと思います。
ということで、これはメチャ気持ちの良いアルバムです。ジャズは難しい音楽ではありませんよ。あれっ、これはジャズじゃなくて、ロック・ジャズでしたね……。不覚でした。
と思います。
リズムが特にいいと思います。
好きですね~。
コメント感謝です。
ズバリ、中毒性の強いアルバムだと思います。
聴く度に虜になってしまうんですよ♪