OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ドナルド・バードとコーラス&ボイス

2011-03-09 15:32:10 | Jazz

A New Perspectiver / Donald Byrd (Blue Note)

結局、サイケおやじがジャズを本格的に聴くようになったのは1970年代以降ですから、その黄金時代のリアルな実相は知る由もありません。

ですからジャズ喫茶で様々なアルバムに接したり、スイングジャーナル誌等々を頼りに鑑賞を積み重ねる他は無かったのですが、既にチャーリー・パーカーは不滅の天才であり、ジョン・コルトレーンは神様と崇められ、マイスル・デイビスが帝王として君臨するそこには、鑑賞時間が増えるのに比例して、もっと日常的なプレイヤーに惹かれる自分を感じるようになりました。

そして決してガイド本にも掲載されず、またジャズ喫茶でも鳴らされることの無い作品に興味を抱き、ましてや自分がお気に入りのミュージシャンでも参加していたら、その邂逅はひとつの幸せだったんですねぇ~♪

例えばドナルド・バードが1963年に制作した本日ご紹介のアルバムは、、これがなかなかの快楽的な意欲作でありながら、何故か我国では無視され続けた現実があります。

それはドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ケニー・バレル(g)、ブッチ・ウォーレン(b)、レックス・ハンフリーズ(ds)、ドナルド・ベスト(vib) という素晴らしいメンバーによるセッションでありながら、全篇に男女混声のコーラスが大胆に使われ、また作編曲にデューク・ピアソンが大きく関わったという、ある意味でのシャリコマ感覚が、聴かず嫌いの根本なのかもしれません。

もちろんご推察のとおり、サイケおやじは大好きなハンク・モブレー目当ての後追い鑑賞から、このアルバムの虜になったのです。

ちなみに録音は1963年1月12日とされていますが、なんとなくテープ編集やダビング作業もあったと推察するのは、全くの独断と偏見である事をお断りしておきます。

A-1 Elijah
 針を落として最初に聞こえてくるのが既に述べたとおりの男女混声コーラスによる、ちょいと下世話なゴスペルメロディということで、そのグッと不思議な高揚感がボサロック系のモダンジャズと混ぜ合わされていくテーマアンサンブルの魅力♪♪~♪
 ここを好きになれるか否かで、このアルバムに対する鑑賞姿勢が決まるような気さえ致しますが、アドリブ先発のケニー・バレルが何時もと変わらぬ都会的なブルースフィーリングを聞かせてくれますから、後は素敵なモダンジャズ天国へ直行する他はないでしょうねぇ~~♪ 実際、このケニー・バレルは最高なんですよっ!
 バックで快適なビートを送り続けるリズム隊のブルーノート感度の高さも特筆物ですし、ほとんど無名のドナルド・ベストが、これまたエモーションに満ちたヴァイブラフォンを演じてくれるのも嬉しいところです。
 そしてお待たせしましたっ! ハンク・モブレーのざっくばらんなテナーサックスが鳴り出せば、その場はすっかり桃源郷♪♪~♪
 まあ、正直、それほど調子は良くない感じではありますが、醸し出される雰囲気が唯一無二なんですねぇ~~♪ それは主役のドナルド・バードにも共通したところで、些か集中力に欠けたようなフレーズ展開が、残念……。
 しかし、こういうゴスペルコーラス&ボイスを積極的に使うという狙いは、それが頭でっかちになりつつあった当時のモダンジャズを大衆から遊離させない目論見として、方向性は間違っていなかったと思います。
 特にコーラスパートをホーンリフのように用いたりするアイディアは、ゴスペル調の演奏と見事にジャストミートしていて、個人的には気に入っていますし、それに呼応して素晴らしいアドリブをやってしまうハービー・ハンコックは、まさに名演中の大名演を披露していますよ♪♪~♪
 いゃ~、実にウキウキさせられますっ!

A-2 Beast Of Burden
 ちょいとテンポを落したクールな演奏ですが、もちろんテーマアンサンブルを形作るのは前曲同様のゴスペルスキャットであり、そのメロディや全体の雰囲気は、鈴木清順監督あたりが撮る日活ハードボイルドの劇伴音源の趣さえ滲んできます。
 あぁ、川地民夫や宍戸錠がストイックに街を歩く映像が目に浮かびますねぇ~♪
 もちろんドナルド・バードはマイルス・デイビスを意識したようなモード系のアドリブを演じ、クールなヴァイブラフォンやピアノがそれを彩った後には、ハンク・モブレーが畢生ともいえる独得のアドリブで自己の世界を紡ぎ出しますから、まさにモブレーマニアは歓喜感涙が必至ですよ。
 またハービー・ハンクックが、これまた良いムードで堅実な助演を聞かせてくれるのも高得点だと思います。

B-1 Cristo Redentor
 これまた黒人霊歌としか言いようのないスローなテーマメロディが男女混声コーラスで歌われるという、なんとも正統派モダンジャズから遊離したスタートではありますが、やはりドナルド・バードがトランペットでリードを吹き始めると、そこには所謂ファンキージャズのムードが濃厚に醸し出されるのですから、その安心感の作り方は流石というところでしょうか。
 しかも、それが同時代の他のミュージシャンがやっていた事に比べると、なかなか新しいんですよねぇ。
 まあ、このあたりの感想は、後追いならではのものですし、リアルタイムではどのような受け取られ方をしたのか、興味津々です。

B-2 The Black Disciple
 そして前曲のムードを引き継ぎつつ、一転、アップテンポで熱く盛り上がるのが、このゴスペルファンキーなハードバップ! もちろんテンションの高いリズム隊のアクセントや黒いコーラス&ボイスが重要なポイントを握っていますが、アドリブパートに入ってしまえば、まずはハンク・モブレーが十八番の「節」を全開という大快演ですし、ドナルド・バードも待ってましたの熱血を迸らせます。
 またハービー・ハンコックの既に新主流派がど真ん中の伴奏やアドリブも心地良く、ケニー・バレルの大ハッスルも王道を行くものでしょう。
 演奏は終盤のドラムソロが蛇足という感もありますが、しかしグループ全員に共通するのは、特有の歌心を大切にしていることだと思えば、結果オーライかもしれませんねぇ。

B-3 Chant
 これがまたしても下世話なゴスペル歌謡というムードが、実にたまりません♪♪~♪
 微妙な「泣き」の入ったソウルフルなテーマメロディを歌うコーラス&ハミングの存在感が琴線に触れるんですよねぇ~♪
 そしてドナルド・バードのトランペットがマイルス・デイビスとは一味違ったクールな歌心を決定的に披露していますよ♪♪~♪ もう、このアルバムの中では最高の瞬間じゃないでしょうか。もちろん続くハンク・モブレーが如何にも「らしい」スタイルで貫録を示せば、ケニー・バレルのマンネリフレーズも良い感じ♪♪~♪
 あぁ、この歌謡曲性感度の高さが、ゴスペルと演歌のコブシを共通項にしている証だとしたら、ハービー・ハンコックの前向きなジャズ魂の発露は、一体何!?
 ただし、このトラックでは、あくまでも男女混声のボーカルチームが存在してこその快楽性が顕著です。

ということで、こんなに気分は最高のアルバムが、何故に我国では人気盤扱いされなかったのか? 今でも不思議に思うほどです。

おそらくはシリアスなムードに欠けた内容がウケなかったんでしょうねぇ……。つまりジャズという、ある部分では難解で、とっつきにくい音楽を聴く優越感が、このアルバムからは得られないという事かもしれません。

しかし逆に言えば、これほど黒人音楽の様々な魅力を積極的に取り入れようとした意欲的なアルバムは、モダンジャズという枠組みの中では珍しいほどです。

それは同時期のマイルス・デイビスが試みていたモードやフリーブローイング等々と呼ばれる前向きな演奏とは異なりますが、同じトランペッターとして、ドナルド・バードが志した方向性だって、やはり前向きに違いないと思いますし、なんとも思わせぶりな斬新さを表現したジャケットには、「band & voices」と記載されているのが見過ごせないところでしょう。

もちろん、「新しき見通し」と題されたアルバムタイトルは言わずもがな!

さらに下世話だの、歌謡曲だのと書き連ねたコーラス&ボイスのゴスペルらしからぬスマートさも、なかなか要注意かと思います。

今日の歴史では、ドナルド・バードがハードバップからモードやフリーの洗礼を受けつつ、最終的にはブラックファンクでウケまくった1970年代前半の輝きまで、常に時代の節目にかなりのヒット盤を出してきたことが明白であり、このアルバムも願わくば再評価されんことを祈るばかりです。

まあ、こんな気持は後追いリスナーの気まぐれかもしれませんが……。

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